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モータの速度を上げたいとき、直接操作できるのは速度そのものではない。インバータで電圧を作り、巻線の電流と磁界を変え、トルクで回転を変える。FOC(磁界方向制御)は、回転する磁界に合わせた座標で電流を扱いやすくする方法である。ここでは永久磁石同期モータ(PMSM)の基本構成を説明する。
電流・トルク・速度を分ける
単純化した機械側の関係は次のように書ける。
Jは慣性[kg m²]、ωは機械角速度[rad/s]、Teはモータの電磁トルク[N m]、TLは負荷トルク[N m]、Bは粘性抵抗[N m s/rad]。電流を増やしてトルクが増えても、大きい慣性や負荷があれば速度はすぐには変わらない。一定速度でも負荷に釣り合うトルクが必要な場合がある。
外側の速度ループ、内側の電流ループ
速度の目標と実測との差から、速度PIがトルクに対応する電流目標を作る。内側の電流PIは、その目標へ電流を近づける電圧目標を作る。PWMはその電圧をインバータのスイッチングで実現する。
図の*は目標値である。電流ループが十分速く追従する前提で外側を設計するが、「必ず何倍速い」といった数字はモータや遅延を無視して決められない。TIのPMSM FOC資料の第4・5節で、座標変換と基本ブロックを確認できる。本図は説明用に描き直した概略で、製品の回路図ではない。
三相を回転する二軸で見る
Clarke変換で三相電流を静止したαβ座標へ写し、Park変換で回転子の磁束に合わせたdq座標へ回す。d軸は磁束方向、q軸はそれに直交する方向とする。平衡した三相で零相を無視できること、変換の振幅・電力に関する正規化をそろえることが前提になる。
表面磁石形を低速側で単純化し、適切な電流定義を持つトルク定数Ktを使えば、Te≈Kt iqと扱える。例としてKt=0.10 N m/Aと定義した仮想モータならiq=3 Aで0.30 N mとなる。これは定義した係数による算術例で、相電流のRMS値を無条件に代入する式ではない。実機ではメーカーのKtとdq変換の定義を合わせる。
電気角は機械角と同じではない
極対数pを持つPMSMでは、電気角は機械角のp倍に基準オフセットを加えたものになる。
極対数4なら、機械的に90°回ると電気角は360°進む。エンコーダの回転方向、ゼロ位置、極数と極対数の混同があると、正しく測った相電流を誤ったdq軸へ写してしまう。まず角度・相順・電流センサの符号とオフセットを確認する順序が必要になる。
id=0がすべての運転条件ではない
基本例ではd軸電流目標を0と置くことが多いが、埋込磁石形の突極性を利用する最大トルク/電流制御や、高速域の弱め磁束では別の目標が必要になる。速度が上がると逆起電力が増し、利用できるDC電圧の範囲で要求電流を追従できなくなることもある。
電流制限と電圧制限は別である。PIの出力が飽和しているのに積分を続けると復帰が遅れるため、anti-windupなども必要になる。目標速度を達成しない原因を、速度ゲイン不足だけに決めつけない。
実装前の確認と次の学習
このページは制御構造の解説で、インバータを実機で駆動した検証ではない。実装では電流測定のタイミング、PWMとの同期、角度の遅延、保護・停止条件を含めて確認する。通電前に既知の電流ベクトルと角度を計算へ入れ、dq変換と逆変換で元へ戻るかを試すと、座標の誤りを切り離せる。
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