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前提と読み方

前提知識 電気回路の電圧・電流・抵抗・インダクタ・コンデンサ。

入門 · 原理・構成・判断のための解説です。

0. この記事で分かること

  • DCリンクから単相・三相交流を作る半橋・フルブリッジの構成。
  • 正弦波PWMと空間ベクトルPWMが平均電圧を作る仕組み。
  • モーター、太陽光PCS、EVでの制御、損失、デッドタイム、保護。

1. インバータとは何か

インバータは、直流電源を半導体スイッチで高速に切り替え、フィルタやモーターのインダクタンスで平均化された交流を作る電力変換器である。スイッチは理想的には電圧を出すか遮断するだけで、正弦波を直接発生しない。PWMのパルス幅、スイッチング周波数、位相を制御して、負荷から見た基本波を合成する。

2. 入力・出力・トポロジー

入力は電池、整流器、太陽光DCリンクなどの直流V_{dc}である。単相フルブリッジは2本のレグに合計4スイッチ、三相2レベルは3本のレグに合計6スイッチを使う。上下を同時にオンするとDC短絡になるため、切替の間にデッドタイムを入れる。高電圧・大電力ではNPC、T型、マルチレベル、モジュラー多段構成がスイッチ電圧を分担する。

3. PWMの数式:どの端子間の電圧かを決める

半橋の中点をDC負極から測ると、理想電圧は 0 と V_{dc} の二値になる。上側スイッチのオン時間の割合を D、周期を T_s とすると、周期平均は \bar v_{a-}=D V_{dc} である。これは負極を基準にした電圧であり、負荷両端の交流電圧とは区別する。

単相フルブリッジをバイポーラPWMで駆動すると、負荷両端は +V_{dc} と -V_{dc} に切り替わる。正側の時間割合が D なら、

\bar v_{ab}=D V_{dc}+(1-D)(-V_{dc})=(2D-1)V_{dc}

となる。D=0.5 で平均はゼロ、D>0.5 で正、D<0.5 で負になる。D(t)=[1+m\sin(\omega t)]/2 とすれば、線形変調範囲 0\le m\le1 で周期平均は mV_{dc}\sin(\omega t) をたどる。m は変調率、\omega は出力基本波の角周波数である。

例えばDCリンクが48 Vなら、D=0.75 の周期平均は24 V、D=0.25 なら−24 Vになる。どちらも瞬間のスイッチ出力は±48 Vであり、24 Vの直流をそのまま出しているわけではない。スイッチングが基本波より十分速いという近似で考える。

三相では相電圧と線間電圧を区別する。モーターのインダクタンスやLCフィルタは電流の高周波リップルを抑えるが、端子電圧の急峻な変化やコモンモード電流は残る。Imperixの単相インバータ解説では回路と変調方式を対応させて確認できる。

4. 基本構成

図1 · ボタンで表示を切り替え
インバータの電力経路と制御ループ上段の実線は電源から負荷への電力、下段の破線は観測とスイッチ指令。制御器は主電力の経路に入らない。 電力の経路 直流電源 スイッチ回路ブリッジ 交流負荷 PWM制御器 ゲート指令 電圧・電流の観測 目標値

実線は電力、破線は観測とゲート指令。PWM制御器は負荷へ電力を供給する主経路には入らない。

5. 制御ループとモーター

モーター駆動では、外側の速度・位置ループがq軸電流指令を作り、内側の電流ループがPWMデューティを更新する。表面磁石PMSMでi_d=0とし、リラクタンストルクを無視した簡略モデルでは、pを極対数、\psi_fを永久磁石鎖交磁束、i_qをq軸電流とすると

T_e\simeq\frac{3}{2}p\psi_f i_q

である。したがってトルクは i_q に従う。磁気飽和、抵抗降下、リラクタンストルク、電流制限を含まないため、実機のトルクをこの式だけで保証できない。高回転では逆起電力を下げる弱め界磁を使う。誘導機では磁束推定と滑り周波数の計算が必要になる。位置センサの分解能、電流サンプリング時刻、PWMデッドタイム補償が低速トルクリップルを決める。

6. 損失・熱・EMI

スイッチ損失を、電圧・電流が線形に重なる遷移を仮定した概算として

P_{sw}\simeq\frac{1}{2}VI(t_{on}+t_{off})f_s,\qquad P_{cond}\simeq I_{rms}^2R_{on}

と近似する。実際の損失はデータシートのスイッチング波形、二次側ダイオード/逆回復、温度、寄生要素で補正する必要がある。f_sを上げればフィルタとモーター電流リップルを小さくできるが、損失・ゲート駆動電力・EMIが増える。SiCやGaNは高速化に有利だが、寄生インダクタンスの電圧オーバーシュート、ゲート誤点弧、絶縁距離を厳密に扱う必要がある。接合温度はT_j=T_c+P_{loss}R_{th,jc}で見積もる一次近似にすぎず、過渡熱抵抗、短時間過負荷、冷却液温度を含めて検証する。

7. トポロジー比較

構成 スイッチ数・特徴 強み 注意点
単相フルブリッジ 4スイッチ UPS・家電に簡素 DC短絡、単相高調波
三相2レベル 6スイッチ モーター・PCSの標準 スイッチ耐圧、コモンモード電圧
NPC/T型 クランプで電圧分担 高電圧、低高調波 部品数、中点電位制御
マルチレベル 小電圧セルを直列 高電圧波形、低EMI 絶縁・セルバランス、制御量

8. 苦手な条件と保護

短絡はスイッチを数µsで破壊し得るため、ゲートドライバのDESAT、電流センサ、ヒューズ、ハードウェア遮断を重ねる。上下スイッチのデッドタイムが長すぎると出力電圧誤差と低速トルク歪みが増える。モーターケーブルが長いと反射サージと軸受電食が問題になる。系統連系では単独運転検出、位相同期、電流高調波、停電時の遮断が必須になる。さらに、プリチャージ、絶縁監視、遮断後にDCリンクコンデンサへ残るエネルギーも確認し、故障時の放電時間と作業者の安全を設計に含める。保護回路は制御ソフトの異常を前提に、ゲートを強制的に止める経路を用意する。試験では通常運転だけでなく、短絡、過電流、通信断、冷却異常を段階的に再現し、遮断後に再起動できる条件も確認する。

9. 実用上の選び方

  • EV・サーボ:連続電流、短時間ピーク、回生電圧、冷却、位置センサを走行・動作サイクルで評価する。
  • 太陽光PCS:MPPT範囲、系統電圧、力率・無効電力、高調波、単独運転保護を確認する。
  • UPS:停電切替時間、バイパス、負荷の突入電流、冗長構成を優先する。
  • 高周波小型電源:GaNのスイッチング速度より、レイアウト・EMI・絶縁試験が先に決まる。

10. まとめ(3行で復習)

インバータはスイッチの平均値をPWMで設計し、DCから必要な交流を合成する。
モーターでは電流・速度・位置ループ、系統では位相・電流・単独運転保護が性能を決める。
効率だけでなく、デッドタイム、熱、EMI、短絡遮断、絶縁を一つの製品として検証する。

理解を確かめる
48 Vのフルブリッジで正側75%、負側25%なら平均は?

バイポーラPWMの理想平均は0.75×48−0.25×48=24 V。基準端子と二つのスイッチ状態を決めてから平均する。

参考リンク

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