スマートフォンの電波が当たり前に届く裏側では、基地局・光ファイバー網・海底ケーブル、そして今や人工衛星までを組み合わせた巨大な通信インフラが動いている。国内通信大手のNTT・KDDI・ソフトバンクは、企業規模はもとより、「無線通信の次」に何を描くかという技術戦略でも三者三様の勝負を仕掛けている。

NTTロゴNTT
KDDIロゴKDDI

画像: NTTロゴ / KDDIロゴ(いずれもパブリックドメイン、商標権は別途存在)、Wikimedia Commons。ソフトバンクについては著作権基準を満たす形でCommonsに登録されたロゴ画像が見つからなかったため、本文中での言及にとどめる。

企業の歴史: 官営独占から民営化・自由化を経た3社

3社の出自は大きく異なる。NTTは1869年(明治2年)に始まった官営の電信事業を起源とし、1952年発足の日本電信電話公社(電電公社)が115年にわたり通信の官営・独占を担った後、1985年4月の電気通信事業法施行に伴い民営化されて日本電信電話株式会社(NTT)となった。1991年にNTT移動通信網(現NTTドコモ)を分離設立し、1999年には持株会社制へ移行してNTT東日本・NTT西日本・NTTコミュニケーションズを発足させている。2025年にはNTTデータグループを完全子会社化するなど、グループ再編を続けている。

KDDIは1953年設立の国際電信電話(KDD、国際通信専業)と、1984年に京セラ創業者・稲盛和夫が設立した第二電電企画(DDI、電電公社民営化に伴う通信自由化で誕生した新電電=NCCの一つ)、および日本移動通信(IDO)という異なる出自を持つ3社が、2000年10月の合併によって統合され発足した。KDDIは自社の設立年をDDI創業の1984年としている。

ソフトバンクは最も出自が異なり、1981年に孫正義がパソコン用ソフトウェア流通業として創業した日本ソフトバンクが起点である。2004年に日本テレコム(固定通信、旧・国際デジタル通信の流れを汲む新電電の一つ)を買収して固定通信事業に参入し、2006年には英ボーダフォンの日本法人を約1兆7,500億円で買収して携帯電話事業(ソフトバンクモバイル)へ本格参入した。ソフトウェア流通業から出発し、M&Aによって通信キャリアへと転身した点が、電電公社の系譜を引く他の2社と最も異なる特徴である。

企業規模の比較: 過去5期の推移

単年度の数値だけでなく、直近5期(2022年3月期〜2026年3月期、3社とも決算期は3月で統一)の推移で見ると、3社の成長パターンの違いがより鮮明になる。なお、NTTの2026年3月期の営業収益・営業利益は、既報の速報値と決算短信の確定値との間で更新が生じたため、本稿ではNTT決算短信・複数の報道を突き合わせて確定値(営業収益14兆4,091億円、営業利益1兆7,062億円)を採用している。

決算期 NTT(持株会社・連結) 営業収益 NTT 営業利益 KDDI 売上高 KDDI 営業利益 ソフトバンク 売上高 ソフトバンク 営業利益
2022年3月期 12兆1,564億円 1兆7,685億円 5兆4,467億円 1兆605億円 5兆6,906億円 9,656億円
2023年3月期 13兆1,361億円 1兆8,289億円 5兆6,717億円 1兆773億円 5兆9,119億円 1兆601億円
2024年3月期 13兆3,745億円 1兆9,229億円(過去最高) 5兆6,997億円 9,120億円 6兆840億円 8,761億円
2025年3月期 13兆7,047億円 1兆6,495億円(減益) 5兆8,355億円 1兆874億円 6兆5,443億円 9,890億円
2026年3月期 14兆4,091億円(過去最高) 1兆7,062億円 6兆719億円 1兆991億円 7兆387億円 1兆426億円(初の1兆円超)
指標 NTT(持株会社・連結) KDDI ソフトバンク
連結従業員数(2026年3月期) 344,196人 73,198人 58,432人
当期利益(2026年3月期) 1兆370億円(前期比+3.7%) 7,071億円(前期比+7.9%) 5,508億円(前期比+4.7%)

3社の中で最も売上規模が大きいのはNTTだが、これはNTTデータグループ(システム開発)、NTT東日本・西日本(固定通信)、海外事業など、携帯電話事業以外の幅広い事業を抱える持株会社としての数字であり、携帯電話事業を中心とするKDDI・ソフトバンクとは単純比較できない点に注意が必要である。NTTは2024年3月期に営業利益が過去最高の1兆9,229億円に達した後、2025年3月期に主力の総合ICT事業(NTTドコモ)の伸び悩みで減益となり、2026年3月期はグローバル・ソリューション事業(NTTデータ)がデータセンター譲渡等で押し上げる形で増収増益に転じている。KDDIは5期を通じて緩やかな増収を続け、2024年3月期にやや利益が落ち込んだ以外は概ね安定した成長を見せる。ソフトバンクは5期連続の増収を達成し、2026年3月期には売上高7兆円・営業利益1兆円をともに初めて突破するなど、3社の中で最も高い成長率を記録した。

主力事業の比較: 携帯契約シェアとAI・データセンター投資

「通信キャリア」としての3社を比較する上で欠かせないのが、携帯電話の契約者シェアと、近年各社が競うように投資を拡大しているAI・データセンター事業である。

項目 NTT(ドコモ) KDDI(au) ソフトバンク
携帯契約数(2026年3月末) 9,307万6,400件 7,276万600件(沖縄セルラー含む) 5,692万100件(ワイモバイル含む)
シェア(4キャリア計約2億3,311万件中) 約39%台、単独首位も過半数は割れている 約31%台 約24%台
AI・データセンター投資の柱 光電融合技術IOWNとNTTデータのデータセンター事業を核に5年で約8兆円を成長投資 堺市のシャープ堺工場跡地を転用した「大阪堺データセンター」(2026年1月稼働、AI学習・推論向けGPUクラウド拠点) 米OpenAIの法人向けAI基盤「Frontier」を活用した経営変革ソリューション「クリスタル・インテリジェンス」を展開

契約者シェアではNTTドコモが依然として単独最大手だが、単独では過半数を割っており、KDDI・ソフトバンク・楽天モバイルの3社を合算するとドコモを上回る規模になる。一方、収益の伸びを牽引しているのは、もはや音声・データ通信そのものではなく「非通信」領域である。NTTはIOWN(後述)と一体でデータセンター事業を成長の柱に据え、KDDIはシャープの液晶工場跡地を1年足らずでAIデータセンターに転用するという異例のスピードでGPUクラウド拠点を立ち上げた。ソフトバンクは自社インフラ投資に加えて米OpenAIとの提携を軸に、生成AIを実務に組み込む企業向けソリューションの展開を急いでいる。通信の契約者基盤で稼ぐ収益モデルから、AI・データセンターという新しい収益源への重心移動が、3社に共通する構造変化である。

「無線の次」を巡る3社3様の技術戦略

大手キャリア各社は、現在の電波(無線)による通信の限界 — 速度・容量・消費電力の限界や、山間部・海上など電波の届かない「圏外」の解消 — に対し、それぞれ異なる技術で挑んでいる。

NTTが掲げるのが次世代通信基盤構想「IOWN(アイオン、Innovative Optical and Wireless Network)」である。従来の電子回路ベースの通信をオール光化することで、大容量・低遅延・低消費電力を同時に実現しようという構想で、これを宇宙通信にも展開しようとしている。従来の光通信端末より速度を数倍から数十倍に引き上げる技術により、無線から光への転換を宇宙分野でも進め、観測データのリアルタイム伝送などへの応用を狙う。中長期的な技術覇権を見据えた、インフラの自前技術による作り込みが特徴である。

KDDIは、米スペースX社の衛星通信サービス「Starlink」との連携を強力に推進している。地上の基地局が届かない山間部や離島でも通信を確保する「衛星とスマートフォンの直接通信」の社会実装を進めており、法人向けにも新たな活用の道を見出している。自社で衛星技術を一から開発するのではなく、世界最大手の衛星通信事業者と組むことで、実利的なエリア拡大を優先するアプローチである。

ソフトバンクは、成層圏に飛行体を滞空させて基地局として使う「HAPS(High Altitude Platform Station)」と、複数の人工衛星を組み合わせた通信網の構築を進めている。自動車・建機・船舶といった移動体をIoTでつなぐ「モビリティIoT」市場への展開に重点を置き、産業分野でのイノベーションを狙う戦略を掲げている。

同じ「圏外をなくす」という目標に対しても、NTTは光技術の自前開発による長期的な技術覇権、KDDIは世界最大手との連携による迅速な実装、ソフトバンクはHAPSと衛星を組み合わせた産業IoT特化、というように各社の技術戦略には明確な個性の違いがある。

主要拠点・データセンター

通信キャリアは工場を持たないため、ここでは各社の本社機能と、AI・データセンター事業の中核となる主要施設を地図に示す。3社とも東京都心に本社機能を置きつつ、データセンターは首都圏近郊から関西・九州・東北まで全国に分散している。

出典: NTT・NTTドコモ・NTT東日本・NTTデータ、KDDI・KDDI総合研究所、ソフトバンクの各公式サイト・ニュースリリースに掲載の拠点名・所在地。多くは町丁目レベルで住所を確認できたが、KDDI大阪堺データセンター(堺区)、ソフトバンクの東京府中・大阪・北九州・福島白河の各データセンターは、公式発表で市区町村レベルまでしか所在地が明らかにされていないため、区・市レベルの座標で代表点を示している(その旨を正直に記載)。座標はOpenStreetMap Nominatimによるジオコーディング。

事業戦略・今後の展望: 「非通信」とAIインフラへの重心移動

3社に共通する2026年前後の経営課題は、成熟した国内携帯電話市場の先にある成長分野をどう確保するかである。各社とも中期経営計画の中心にAI・データセンター・非通信事業を据えている。

NTTは2023年5月公表の中期経営戦略「New value creation & Sustainability 2027 powered by IOWN」を、2026年5月に「New value creation & Sustainability 2030 powered by AIOWN」へ改定した。光電融合デバイスのエコシステム拡大によるIOWNの社会実装加速と、AIを活用したオペレーション変革を両輪に据え、成長分野に5年間で約8兆円を投資する計画を掲げる。2025年のNTTデータグループ完全子会社化は、この成長戦略をグループ一体で推進する布石であり、2026年3月期にグローバル・ソリューション事業(NTTデータ)の営業利益が前期比50%超増加した実績は、データセンター・AI関連需要の取り込みが早くも収益に表れ始めていることを示す。

KDDIは2026年5月、2027年3月期〜2029年3月期を対象とする新たな中期経営戦略「Power-to-Connect 2028」を発表した。通信を基本インフラとする「AIネイティブ社会」の実現を掲げ、通信事業(TelecomCoreセグメント)の安定成長と、AI・データセンター等の成長事業(Growthセグメント)の二桁成長を両輪とし、営業利益の年平均成長率5%を目標に据える。前述の大阪堺データセンターに加え、ローソンの連結子会社化や衛星通信Starlink Directとの連携も、非通信領域の成長ドライバーとして位置づけられている。なお、楽天モバイルはKDDIからのローミング契約解消(自立)を目指して交渉を続けており、これが実現すれば携帯4社の競争環境にも影響が及ぶ可能性がある。

ソフトバンクは2026年5月に新中期経営計画「Activate AI for Society」を発表し、AIインフラ・AIサービス・ファイナンス・メディア/ECの4領域を成長ドライバーに据えた。象徴的なのが、米OpenAIの法人向けAIプラットフォーム「Frontier」を基盤とする経営変革ソリューション「クリスタル・インテリジェンス」で、質問に答える従来の生成AIとは異なり「人に代わってタスクを完遂する」マルチエージェントAIとして、2026年中に大企業向けにサービス提供を開始する計画である。2026年3月期に売上高7兆円・営業利益1兆円をともに初めて突破した実績を土台に、AIをコンシューマー向け・法人向けの両方で収益化する動きを加速させている。

3社に共通するのは、成熟した携帯電話市場そのものではなく、AI・データセンターという新しい成長領域への投資競争へと軸足が移っていることである。NTTは自前の光技術(IOWN)、KDDIは既存インフラの高速転用(堺DC)とパートナーシップ(Starlink・ローソン)、ソフトバンクは米OpenAIとの提携という、それぞれ異なるアプローチでこの競争に臨んでいる。

参考リンク

#通信インフラ #NTT #KDDI #ソフトバンク