鉄鋼業は自動車・建設・造船・家電まであらゆる製造業を支える基礎素材産業でありながら、製鉄工程、とりわけ高炉の還元反応で大量のCO2を排出する、脱炭素が最も困難な産業の一つでもある。国内最大手の日本製鉄と2位のJFEホールディングスは、企業規模で明確な差をつけながら、脱炭素技術では競合の壁を越えて手を組む。

日本製鉄ロゴ日本製鉄
JFEホールディングスロゴJFEホールディングス

画像: 日本製鉄ロゴ / JFEホールディングスロゴ(いずれもパブリックドメイン、商標権は別途存在)、Wikimedia Commons

企業の歴史: 官営八幡製鉄所の系譜と、川崎製鉄・日本鋼管の統合

日本製鉄の源流は1901年に操業を開始した官営八幡製鉄所にさかのぼる。1934年、官営八幡製鉄所と民間製鉄7社が大合同し、国策会社「日本製鐵」が発足したが、戦後の過度経済力集中排除法により1950年に解体され、八幡製鐵・富士製鐵など4社に分割された。1970年3月、八幡製鐵と富士製鐵が再び合併して「新日本製鐵」が誕生し、以後長く日本最大の鉄鋼メーカーとして君臨した。2012年には住友金属工業と合併して「新日鐵住金」となり、2019年に現在の社名「日本製鉄」に変更している。

JFEホールディングスは、旧日本鋼管(NKK、国内粗鋼生産量2位)と旧川崎製鉄(川鉄、同3位)という、業界2位・3位グループの経営統合によって生まれた。2001年12月の基本合意を経て2002年9月に持株会社JFEホールディングスが発足し、2003年4月に事業会社を再編してJFEスチール・JFEエンジニアリング等を設立した。日本製鉄が「1位企業同士の合併の繰り返し」で生まれたのに対し、JFEは「2位・3位連合」によって日本製鉄に対抗する規模を確保したという成り立ちの違いがある。

企業規模の比較(時系列): 直近5期の推移

両社とも決算期は3月期で揃っているが、日本製鉄は主指標として「事業利益」(IFRS基準、在庫評価差等を含む実質的な稼ぐ力を示す指標)を、JFEホールディングスは「経常利益」を前面に出す傾向があるため、それぞれの主要開示指標で5期の推移を示す。

日本製鉄(事業利益ベース)

決算期 売上収益 事業利益 当期利益
2022年3月期 約6兆8,100億円(前期比推定+20%台) 9,381億円(過去最高、前期比8.5倍) 6,373億円(2012年経営統合以来最高)
2023年3月期 7兆9,755億円(前期比+17%) 9,164億円(前期比-2%) 6,940億円(前期比+9%、2期連続最高益)
2024年3月期 8兆8,680億円 8,000億円(前期比-13%、実力ベースでは8,900億円で過去最高) 4,700億円(前期比-32%)
2025年3月期 8兆6,955億円 6,832億円(実力ベース事業利益は7,937億円) 3,502億円
2026年3月期 10兆632億円(前期比+15.7%、USスチール連結効果) 5,141億円(前期比-24.8%、米事業の業績見直しが影響) 171億円(前期比大幅減、期初は最終赤字600億円を予想)

※2022年3月期の売上収益は、2023年3月期の実績(7兆9,755億円、前期比+17%)から逆算した推定値。

JFEホールディングス(経常利益ベース)

決算期 売上収益 経常利益 当期利益
2022年3月期 約4兆3,652億円(前期比推定) 約3,888億円(前期比推定) (資料により変動、次期比較のための逆算値)
2023年3月期 5兆2,687億9,400万円(前期比+20.7%) 2,102億8,200万円(前期比-45.9%) 1,626億2,100万円(前期比-43.5%)
2024年3月期 5兆1,746億3,200万円(前期比-1.8%) 2,683億8,600万円(前期比+27.6%) 1,974億2,100万円(前期比+21.4%)
2025年3月期 4兆8,596億4,700万円(前期比-6.1%) 1,443億1,500万円(前期比-46.2%) 918億6,700万円(前期比-53.5%)
2026年3月期 4兆5,392億7,000万円(前期比-6.6%) 874億1,700万円(前期比-39.4%) 701億6,500万円(前期比-23.6%)

※2022年3月期の数値は、2023年3月期の実績からの逆算による推定値。

指標 日本製鉄 JFEホールディングス
連結従業員数 113,845人(2025年3月時点) 61,628人(前期比+332人)

5期の推移を見ると対照的な姿が浮かぶ。両社とも2022〜2023年3月期は鋼材価格の高騰で過去最高益圏の業績を記録したが、その後は世界的な鋼材需要の減退と中国の過剰生産・安値輸出の影響で、2024年3月期以降5期連続で減益基調が続いている。日本製鉄は2026年3月期にUSスチール連結で売上高こそ10兆円を突破したが、利益面では米事業の業績見直しの影響で伸び悩んでいる。JFEホールディングスは売上高・利益とも縮小が続いており、後述する構造改革(高炉休止)に踏み切る背景となっている。

主力製品の比較: 電磁鋼板・ハイテン・造船用鋼材

無方向性電磁鋼板: EVモーターを支える基幹部材

自動車の電動化が進むなか、両社が鎬を削るのが、EV・HEV駆動モーターの鉄心に使われる無方向性電磁鋼板である。日本製鉄は世界最大の電磁鋼板メーカーで世界シェア約30%(2位は韓国ポスコ、3位はロシアNLMK)を握り、初代「プリウス」開発時からトヨタ自動車の要請を受けて高性能品の開発に着手した経緯を持つ。JFEスチールは1954年に冷間圧延による無方向性電磁鋼板の製造を開始した草分けで、西日本製鉄所倉敷地区で高級無方向性電磁鋼板の製造能力を2024年9月に従来比2倍に増強し、2023年にはインドで現地合弁による生産にも乗り出している。両社とも「モーター効率を左右する基幹部材」としてこの分野への投資を優先しており、鋼材需要全体が縮小する中でも数少ない成長領域として位置づけている。

自動車用ハイテン(高張力鋼板): 軽量化と衝突安全性の両立

自動車車体の軽量化(燃費・電費向上)と衝突安全性向上という相反する要求を同時に満たす技術として、両社とも高張力鋼板(ハイテン)を主力製品に位置づけている。日本製鉄によれば、現在の自動車車体の4〜6割がハイテンで占められているという。JFEスチールもハイテンの性能を引き出す車体構造設計・プレス加工・溶接技術まで含めた「利用技術」の開発を進めており、単なる鋼材の供給にとどまらず、自動車メーカーの設計プロセスに入り込む形で差別化を図っている。高張力鋼関連の企業ランキングでは、2026年時点でJFEスチールが1位、日本製鉄が2位、神戸製鋼所が3位という調査もある。

造船・エネルギー用厚板: LNG船・洋上風力への展開

両社とも造船・エネルギーインフラ向けの厚板事業を持ち、LNG運搬船向け極低温用鋼材や、洋上風力発電の基礎構造物向け大型厚板など、脱炭素関連の新規需要を取り込む方向に開発を進めている。この分野は自動車用鋼材ほど華やかではないが、日本の造船業復権や洋上風力の導入拡大とともに、両社にとって今後の需要創出源として位置づけられている。

技術戦略の違い

日本製鉄の技術戦略の軸は、住友金属工業との合併(2012年)以降培ってきた高級鋼の総合力と、USスチール買収によって一気に拡大した海外生産基盤を組み合わせ、「量」と「質」の両面で世界首位級を目指す方向にある。JFEホールディングスは、旧日本鋼管・旧川崎製鉄それぞれの技術を統合した強みを持ちつつ、国内生産体制の再構築(高炉休止による量から質への転換、後述)によって高付加価値品比率を高める方向に舵を切っている。両社の技術戦略における最大の違いは「規模拡大」(日本製鉄)と「選択と集中」(JFE)という対照的なアプローチにある。

競合を超えた共同プロジェクト: 水素還元製鉄

鉄鋼業界最大の技術課題は、高炉での鉄鉱石還元に伴うCO2排出をどう減らすかである。この課題に対し、日本製鉄とJFEホールディングス(JFEスチール)は、神戸製鋼所を交えた4者共同のコンソーシアムを組み、経済産業省傘下のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金による支援を受けながら開発を進めている。

日本製鉄は、高炉に加熱した水素を吹き込むことで、石炭を使う従来の還元反応の一部を水素還元(吸熱反応)に置き換える技術「Super COURSE50」を開発しており、2023年11月〜12月に実施した試験では、高炉本体からのCO2排出量を33%削減するという、世界最高水準の成果を確認した。日本製鉄はこの高炉水素還元技術に加え、大型電気炉での高級鋼製造、水素による還元鉄製造という3つを「超革新的技術」と位置づけ、2050年のカーボンニュートラル実現を目指している。

同じ業界で激しく競合する日本製鉄とJFEが、脱炭素という一社では解決できない課題に対しては手を組んで技術開発を進めているという構図は、前述のガスインフラ業界のメタネーション共同委員会とも共通する、日本の重厚長大産業に見られる興味深いパターンである。

開発・製造拠点

日本製鉄は本社(東京都千代田区丸の内)のもと、君津(千葉県)・八幡(福岡県北九州市)・名古屋(愛知県東海市)など全国に製鉄所を構える。JFEホールディングスは本社(東京都千代田区内幸町)のもと、JFEスチールが東日本製鉄所(千葉・京浜)と西日本製鉄所(倉敷・福山)の4地区体制で製鉄所を運営する。判明する主要拠点を地図に示す(海外拠点および両社のグループ会社全数は対象外)。

出典: 各社公式サイトの製鉄所紹介・拠点案内ページに掲載の地区名をもとに、住所は各製鉄所公式アクセスページおよび地図情報サービス(Yahoo!地図等)で個別に確認。座標はOpenStreetMap Nominatimによる町丁目・施設名単位のジオコーディング。

事業戦略・今後の展望: 日本製鉄の「量と質」、JFEの「量から質へ」

日本製鉄は2025年12月、2026年度からの「2030中長期経営計画」を発表した。国内事業の収益基盤強化と海外事業の成長戦略を両輪に据え、世界No.1の鉄鋼メーカーへの復権を目指すとし、5年間で総額6兆円規模の投資のうち約4兆円を海外事業に振り向ける方針を示した。米国・欧州・インド・タイを成長市場と位置づけ、USスチールには2028年までに約110億ドルを追加投資することで米政府と合意済みである。連結の実力利益1兆円以上の確実な実現と、将来的なグローバル粗鋼生産量1億トン以上という目標を掲げており、USスチール買収(前述)によって獲得した生産能力を核に、量的拡大と高級鋼中心の質的向上を同時に追求する構えである。

JFEホールディングスは2025年5月、長期ビジョン「JFEビジョン2035」と第8次中期経営計画(2025〜2027年度)を策定した。国内鉄鋼事業では「量から質への転換」を掲げ、構造改革の完遂・高付加価値品比率の引き上げ・販売価格体系の見直しを進める一方、インドなど成長する海外市場での事業拡大に注力する方針を示している。この「量から質への転換」の具体策が高炉休止であり、西日本製鉄所倉敷地区の高炉1基を2025年5月に休止(2028年度再稼働予定)、福山地区の高炉1基も2027年度に休止する計画を明らかにしている(東日本製鉄所京浜地区の高炉はすでに2023年に休止済み)。環境対策と経済性を両立する「GXスチール」の拡販や、2028年度稼働予定の革新的電気炉の開発も進めており、生産能力を絞り込みながら収益性を高める「スリムで強靭な生産体制」の構築を急いでいる。

両社の戦略の方向性は対照的である。日本製鉄はUSスチール買収を起点に海外生産能力を積み増す「拡大」路線を取るのに対し、JFEホールディングスは国内の高炉を計画的に休止しながら高付加価値品にシフトする「縮小均衡からの質的転換」路線を取っている。同じ鉄鋼業界の縮小市場環境に対し、規模で勝負する日本製鉄と、規模を絞って収益性で勝負するJFEという、対照的な打ち手が並ぶ。

参考リンク

#鉄鋼 #日本製鉄 #JFEホールディングス