シリコンウエハー上に微細な回路を刻む半導体製造装置は、半導体そのものの生産で存在感を落とした日本企業が、今なお世界的な競争力を保つ数少ない領域である。総合力で世界最大級の東京エレクトロンと、洗浄工程に特化して世界トップシェアを握るSCREENホールディングスは、規模でも戦略でも対照的な戦い方をする。東京エレクトロンのコータ/デベロッパ(塗布・現像装置)は世界シェア90%(EUV露光用途ではほぼ100%)という、半導体業界でも突出した独占度を誇る一方、SCREENは印刷会社から半導体装置メーカーへと業態そのものを転換させた異色の経歴を持つ。

シリコンウエハーSCREENホールディングス

画像: 東京エレクトロンロゴ(パブリックドメイン、商標権は別途存在) / シリコンウエハー(CC0)、Wikimedia Commons。ウエハー写真はSCREENの具体的な製品ではなく、同社が手がける洗浄工程の対象を表すイメージ。

企業の歴史: 半導体専業で創業した東京エレクトロン、印刷業から転じたSCREEN

東京エレクトロンは1963年11月11日、「半導体こそ産業界を変革する」という信念のもと、久保徳雄・小髙敏夫らによって東京都港区赤坂に資本金500万円で設立された、当初は技術専門商社だった。1964年に米サームコ社から拡散炉の輸入販売代理権を獲得して事業を開始し、1968年にはテル・サームコ社で拡散炉の国内生産に着手、装置メーカーへと転じていく。1986年には米ラム・リサーチとの合弁会社を100%子会社化するなど自社製品の拡充を進め、同年から海外輸出も開始、1989年には半導体製造装置メーカー売上高で世界1位に到達した。2013年には米アプライド・マテリアルズとの経営統合契約を締結したが、2015年に独占禁止法上の懸念から統合は解消され、以後は独立路線で新ビジョン・中期経営計画を策定し成長を続けている。

SCREENホールディングスの起源はさらに古く、1868年(明治元年)に銅版画家・石田才次郎が京都で創業した石版印刷所「石田旭山印刷」にさかのぼる。銅版・石版印刷の時代を経て、写真製版に不可欠な「写真製版用ガラススクリーン」の国産化に成功し、1937年に研究部門が独立して大日本スクリーン製造所が発足、1943年に株式会社化した。社名の「スクリーン」は、この創業事業であるガラススクリーンに由来する。同社はその後、電子製版彫刻機やテレビ撮像管用ターゲットメッシュ、カラーブラウン管用シャドウマスクなど精密部品分野へ多角化し、1970年代には半導体製造装置事業に参入してフォトレジストコーティング装置やバッチ式洗浄装置の開発を開始した。1994年には電子工業向け機器の売上高が祖業である印刷関連機器を上回り、事業の主軸が完全に入れ替わる。2014年10月1日、社名を株式会社SCREENホールディングスに変更し、持株会社体制へ移行した。

企業規模の比較: 過去5期の推移

決算期は両社とも3月期で揃っている。直近5期(2022年3月期〜2026年3月期)の推移を見ると、両社とも半導体投資サイクルの波を受けながらも、規模の差はほぼ一定して推移していることが分かる。

決算期 東京エレクトロン 売上高 東京エレクトロン 営業利益 SCREEN 売上高 SCREEN 営業利益
2022年3月期 2兆38億円 5,993億円 4,119億円 613億円
2023年3月期 2兆2,090億円 6,177億円 4,608億円 765億円
2024年3月期 1兆8,305億円(調整局面) 4,563億円(減益) 5,049億円 942億円
2025年3月期 2兆4,315億円 6,973億円(ピーク) 6,253億円(ピーク) 1,357億円(ピーク)
2026年3月期 2兆4,435億円(微増) 6,249億円(減益) 6,057億円(減収) 1,225億円(減益)
指標 東京エレクトロン SCREENホールディングス
純利益(2026年3月期) 5,744億円(前期比+5.6%、政策保有株式の売却益等) 920億円(前期比-7.5%)
連結従業員数 19,573人(2025年3月期時点) 6,884人(前期比+469人)

売上高では東京エレクトロンがSCREENホールディングスのおよそ4倍の規模を持つ。両社とも2024年3月期に半導体投資の調整局面で落ち込み、2025年3月期に過去最高圏まで急回復、2026年3月期は再び減益に転じるという、ほぼ同じサイクルをたどっている点が興味深い。従業員数の差(約2.8倍)は売上高の差(約4倍)ほど大きくなく、SCREENの方が従業員一人あたりの売上高で見るとやや低い水準にある。東京エレクトロンは政策保有株式の売却益などにより2026年3月期も純利益は増益を確保したが、SCREENは営業利益・純利益とも減益となった。

主力製品の比較

コータ/デベロッパ vs 洗浄装置: それぞれの独占領域

東京エレクトロンの製品群の中でも突出しているのが、レジスト(感光材)をウエハーに塗布し、露光後に現像する「コータ/デベロッパ」で、代表製品は「CLEAN TRACK」シリーズ(LITHIUS Pro、ACTなど)である。世界シェアは約90%、最先端のEUV露光プロセス向けに限ればほぼ100%に達し、露光機最大手のオランダASMLとの緊密な連携によって露光機とインラインで直結し、プロセス全体を最適化する「インテグレーション能力」を競争力の源泉にしている。

SCREENホールディングスの洗浄装置は、ウエハー1枚ずつを処理する「枚葉式」(代表製品: SU-3200、SU-3300、SU-3400)、複数枚を一括処理する「バッチ式」、基板を高速回転させながら洗浄する「スピンスクラバー」の3分野すべてで世界トップシェア(34.7%)を握る。累計出荷台数は2025年に1万5,000台を突破しており、特に最先端ロジック・メモリ向けの枚葉式洗浄装置で高い競争力を持つ。SU-3300は独自の「Advanced Process Atmosphere Control」技術でチャンバー内を超高純度環境に保ち、バッチ式に迫るスループットと枚葉式ならではの高い洗浄品質を両立させている。

項目 東京エレクトロン コータ/デベロッパ(CLEAN TRACK) SCREEN 枚葉式洗浄装置(SU-3300ほか)
世界シェア 約90%(EUV用途はほぼ100%) 洗浄装置全体で34.7%(枚葉・バッチ・スピンスクラバー全分野で世界首位)
主要用途 レジスト塗布・現像、露光機とのインライン連携 ウエハーの不純物・薬液除去、最先端ロジック/メモリ向け
競争力の源泉 ASMLとの連携による露光プロセス全体最適化 独自のチャンバー内環境制御技術による高スループット・高品質の両立

エッチング・成膜 vs 後工程(先端パッケージング)への展開

東京エレクトロンは前工程の主要4工程すべてに製品群を持つ総合装置メーカーで、コータ/デベロッパ以外にも、プラズマエッチング装置「Tactras」(2006年発売、最大6チャンバー搭載可能な300mmウエハー対応機)や、WF6・TiCl4を用いた枚葉CVD成膜装置「Triase+」を展開する。エッチング・成膜の両市場では、東京エレクトロンは米アプライド・マテリアルズ、米ラム・リサーチと並ぶ寡占的地位を占めている。

SCREENは従来、ウエハーの前工程(洗浄)に事業を集中させてきたが、近年は後工程、特に半導体チップを積層・接続する先端パッケージング分野への展開を進めている。2025年12月のSEMICON Japanでは、洗浄装置で培った1.5万台超の実績を軸に、後工程分野と米国での研究開発拠点新設という2つの新機軸を打ち出した。前工程の専業に徹してきたSCREENが後工程へ踏み出す動きは、AIチップの高度化に伴いパッケージング技術そのものが性能を左右する時代に入ったことを反映している。

技術戦略・強みの違い

半導体製造は、成膜・フォトリソグラフィ(塗布・現像)・エッチング・洗浄・熱処理など、数十から数百の工程を経て完成する。両社の事業戦略はこの工程のどこまでを手がけるかで大きく異なる。

東京エレクトロンは、成膜・塗布現像・エッチング・洗浄という半導体製造の4つの主要工程すべてに製品群を持ち、その多くで世界トップクラスのシェアを握る総合装置メーカーである。特定の工程に依存しない事業ポートフォリオにより、特定技術のトレンド変化による影響を分散できる強みがある。

SCREENホールディングスは対照的に、ウエハーから不純物や薬品を洗い流す「洗浄」工程に特化した専業メーカーとして出発した。工程を絞り込むことで技術を深く磨き上げ、顧客ごとの細かなニーズに応じたカスタマイズ能力を競争力の源泉にしている。ただし前述の通り、近年は後工程分野への展開によって、専業の枠を徐々に広げつつある。

この「広く浅く」と「狭く深く」という対照的な戦略は、半導体製造装置業界全体に見られる構造でもあり、両社はしばしば直接競合するというより、工程ごとに異なる強みを持つプレイヤーとして位置づけられる。

開発・製造拠点

東京エレクトロンは本社(東京都港区赤坂)のほか、グループ会社の生産拠点を山梨県(東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ、成膜・エッチング装置)・宮城県(東京エレクトロン宮城、プラズマエッチング装置)・岩手県(東京エレクトロン東北)に構える。SCREENホールディングスは本社(京都市上京区)のほか、半導体製造装置のマザー工場である彦根事業所(滋賀県彦根市)、野洲事業所(滋賀県野洲市)、洛西事業所(京都市伏見区)などを国内に展開する。判明する国内主要拠点を地図に示す(海外拠点・営業専業の小規模事業所は対象外)。

出典: 東京エレクトロンは公式サイト「拠点紹介」「事業所」ページ、各グループ会社(東京エレクトロン宮城・テクノロジーソリューションズ)の公式ページを参照。SCREENホールディングスは公式サイト「国内事業所一覧」ページを参照。両社とも詳細な号地番までは非公表の拠点があり、その場合は地図情報サービス(マピオン電話帳、NAVITIME等)で町丁目単位の所在地を確認した。座標はOpenStreetMap Nominatimによる町丁目単位のジオコーディング。

事業戦略・今後の展望

東京エレクトロンは2022年6月発表の中期経営計画で、2027年3月期に売上高3兆円・営業利益率35%以上という目標を掲げている。計画期間中に研究開発費1兆円以上、うち設備投資に4,000億円以上を振り向け、生産能力と研究開発力を同時に強化する方針である。2025年7〜9月期決算では、生成AI需要の拡大を背景に3兆円目標達成への自信を改めて示しており、同社は半導体の微細化とAI向け需要拡大を一時的なブームではなく10年以上続く構造変化と位置づけている。

SCREENホールディングスは、中期経営計画「Value Up Further 2026」のもとで、2033年3月期に売上高1兆円以上・営業利益率20%以上という長期目標を掲げ、2025年3月期〜2027年3月期の3年間で営業キャッシュフローと手元資金を合わせた約3,600億円を、設備投資(約1,000億円)・研究開発(約1,100億円)・戦略投資(約800億円)・配当(約700億円)に配分する計画を示している。前述の後工程分野への展開に加え、洗浄・熱処理・先端パッケージングといった要素技術の開発を早期に着手し装置開発期間を短縮する狙いから、米国に新たな研究開発拠点を設置する計画も公表しており、専業メーカーとしての強みを維持しながら事業領域を段階的に広げる戦略を取っている。

両社に共通する外部環境の追い風は、生成AI向け半導体需要の急拡大である。AIチップは回路の微細化と先端パッケージングの両面で高度な製造技術を要求するため、東京エレクトロンの前工程装置とSCREENの洗浄・後工程装置は、いずれもAI半導体の性能向上に不可欠な役割を担う。一方で両社とも2024年3月期・2026年3月期に投資サイクルの調整局面で減益を経験しており、装置メーカーとしての業績が半導体メーカー側の設備投資サイクルに強く連動するという構造的な特性からは逃れられない。

参考リンク

#半導体製造装置 #東京エレクトロン #SCREENホールディングス