金属を削り出して部品を作る工作機械は「マザーマシン(母なる機械)」と呼ばれ、自動車・航空機・半導体製造装置まで、あらゆる製造業の土台を支える。国内大手のDMG森精機・オークマ・ヤマザキマザックのうち、ヤマザキマザックのみ非上場で財務情報を非公表としており、以下では開示範囲の違いにも触れながら3社を検証する。奇しくもオークマとヤマザキマザックは、ともに愛知県丹羽郡大口町という同じ町に本社を構える「お隣さん」同士でもある。
5軸マシニングセンタ(参考例)画像: DMG森精機ロゴ(パブリックドメイン、商標権は別途存在) / 5軸マシニングセンタ(Jokkx, CC BY-SA 4.0)、Wikimedia Commons。右の写真はドイツHermle社製で、本文で扱う3社いずれの製品でもない、5軸加工機一般のイメージ。
企業の歴史: 繊維機械・製麺機・製畳機械——3社とも「工作機械以外」から出発した
3社とも、創業時は工作機械とは無関係の事業からスタートしたという共通点を持つ。
DMG森精機の起源は1948年、奈良県大和郡山市で繊維機械の製造販売を始めたことにさかのぼる。1958年に高速精密旋盤へ軸足を移して工作機械メーカーへと転換し、1970年に伊賀事業所を稼働、数値制御(NC)化・複合加工化という時代の要請に応じて事業領域を広げた。2004年に本社機能を名古屋へ移し、2009年に独GILDEMEISTER AG(現DMG MORI AG)と資本・業務提携、株式の段階取得を経て2013年に商号を「DMG森精機」に改称、2015年に独DMG MORI AGを連結子会社化して日独欧の工作機械事業を一つの経営体制に統合した。
オークマは1898年、元警察官の大隈榮一が名古屋市で「大隈麺機商会」として創業した、製麺機の製造販売を営む会社だった。1904年に工作機械の製造に乗り出し、1916年に大隈鐵工所へ商号変更、1918年に株式会社化した。1963年からはCNC(数値制御装置)の自社開発に着手し、この技術こそが同社最大の差別化要因である「OSP」の起点となる。1991年に社名をオークマ株式会社へ改めた。
ヤマザキマザックは1919年、山崎定吉が愛知県名古屋市で山崎鉄工所として創業し、「製畳機械」(畳製造機械)の製造から出発した。1927年に旋盤・フライス盤などの工作機械製造に参入、1931年から本格的に工作機械製造へ軸足を移した。太平洋戦争後はGHQにより一時製造を禁じられたが、1946年に中興の祖・山崎照幸が家業に加わり、1959年に生産を再開。1963年には日本の工作機械メーカーとして初めて対米輸出を行い、1974年には日本メーカー初となる米国現地生産に乗り出すなど国際展開を先導し、1987年に工作機械メーカー売上高で世界首位を記録して以来、その地位を保っているとされる。
企業規模の比較: 開示姿勢の違いと時系列推移
決算期も開示姿勢も3社でばらばらであるため、DMG森精機(12月期)・オークマ(3月期)はそれぞれの決算期に沿った時系列で、ヤマザキマザックは非公表である旨を明記して並べる。
| 決算期 | DMG森精機 売上収益 | DMG森精機 営業利益 | オークマ 売上高 | オークマ 営業利益 |
|---|---|---|---|---|
| 2022年 / 2023年3月期 | 4,834億円 | 412億円 | (2022年3月期は1,728億円、営業利益は未確認) | — |
| 2023年 / 2024年3月期 | 5,485億円(過去最高) | 554億円(過去最高) | 2,276億円 | 248億円 |
| 2024年 / 2025年3月期 | 5,413億円 | 437億円 | 2,280億円 | 254億円 |
| 2025年 / 2026年3月期 | 5,150億円(減収) | 190億円(大幅減益) | 2,068億円(減収減益) | 147億円(減益) |
| 2026年(見通し) / 2026年3月期実績 | 5,800億円(2026年8月に上方修正) | 300億円(同上方修正) | 2,359億円(過去最高、+14.1%) | 155億円(+5.8%) |
| 指標 | DMG森精機 | オークマ | ヤマザキマザック |
|---|---|---|---|
| 従業員数 | 約14,026人(連結) | (詳細非公表) | 約8,800人(グループ企業合計、2025年12月時点) |
| 上場区分 | 東証プライム上場 | 東証プライム上場 | 非上場 |
DMG森精機は2023年に過去最高の売上収益・営業利益を記録した後、2024〜2025年に自動車業界向け需要の停滞などで減益局面に入ったが、2026年8月の中間決算発表で通期業績予想を再び上方修正し、2028年度には受注額7,000億円・売上高6,800億円・EBIT685億円という、2023年度のピーク(売上高5,395億円・EBIT554億円)を上回る新たなピークを見込んでいる。オークマは2025年3月期に売上・利益とも落ち込んだが、2026年3月期は売上高2,358億円(+14.1%)・純利益125億円(+30.9%)と過去最高の売上高を記録し、V字回復を遂げた。
ヤマザキマザックは株式非上場企業であり、売上高をはじめとする財務情報を公表していない。従業員数(グループ約8,800人)から推測すると、DMG森精機・オークマと同規模かそれ以上の売上規模を持つとみられるが、この点は公開情報からは検証できない。2024年時点の世界工作機械メーカーシェアランキングでは、DMG森精機が世界2位(1位は独トルンプ)にランクインしている一方、ヤマザキマザックは複合加工機という特定分野での最大級シェアが語られることが多く、工作機械全体での順位を裏付ける開示情報は見当たらない。投資家目線での比較という観点では、非上場企業は開示情報そのものが少ないという制約があることも、この業界を見る上での重要な前提である。
主力製品の比較
CNC(数値制御装置): 自社開発のオークマ、外部調達が主流の他2社
工作機械の頭脳にあたるCNCの調達方針は、3社を分ける大きな軸である。オークマは1963年から一貫してCNC「OSP」を自社開発しており、機械本体から制御系まで一貫生産する数少ないメーカーである。最新の「OSP-P500」は従来機比で演算速度を約2倍に高め、デジタル空間上で加工工程をシミュレーションする「デジタルツイン」機能により、実際に機械を動かす前に加工順序の確認や加工時間の見積もりができる。DMG森精機・ヤマザキマザックは、多くの工作機械メーカーと同様にファナックやシーメンスなど外部のCNCメーカー製品を主に採用しており(DMG森精機は自社製「CELOS」というオペレーティングシステムをCNC上位のUI層として展開している)、この点でオークマの垂直統合度は際立つ。
複合加工機・5軸マシニングセンタの比較
| 項目 | DMG森精機(5軸・複合加工機) | オークマ(CNC旋盤 LB-EX シリーズ) | ヤマザキマザック(複合加工機 INTEGREXシリーズ) |
|---|---|---|---|
| 代表製品・特徴 | 5軸マシニングセンタ全般、ミーリングと旋削を1台で行う複合加工機、超音波振動加工「ULTRASONIC」シリーズ | LB3000 EX III(1サドルCNC旋盤)、主軸速度5,000min⁻¹・最大出力22kW、早送り速度30m/min(従来機比+20%) | INTEGREX iシリーズ・INTEGREX jシリーズなど、旋削・ミル加工・歯車加工・計測を1台に統合するマルチタスキングマシンで世界最大級シェアとされる |
| 強みの方向性 | 幅広い産業(自動車・金型・航空宇宙・半導体・医療機器)向けの汎用性と自動化(無人長時間運転) | 高剛性門型ベッド構造と熱変位補償技術による長時間加工時の寸法精度維持、シリーズ累計世界販売18,000台超 | 旋盤+ミーリング+歯車加工+計測の統合による工程集約、量産から多品種少量生産まで幅広く対応 |
DMG森精機は自動車・金型・航空宇宙・半導体・医療機器など幅広い分野向けに5軸マシニングセンタの製品群を展開し、世界的に高いシェアを持つ。ワークの脱着・搬送まで自動化した無人長時間運転や、切削に加えて超音波振動を活用しセラミックスや難削合金まで高精度加工できる「ULTRASONIC」シリーズなど、自動化と複合化の両方向で技術を広げている。オークマのLB-EXシリーズは1982年発売の初代LB15から続くロングセラーブランドで、労働力不足・技能継承・脱炭素といった製造現場の課題に対応する「高精度・省エネ性能」を追求してきた。ヤマザキマザックのINTEGREXシリーズは、旋削とミーリングを1台に統合するマルチタスク機の分野で最大級のシェアを持つとされ、AGシリーズでは歯車加工と計測機能まで1台に集約するなど、工程集約という一貫した思想で製品を進化させている。
開発・製造拠点
DMG森精機は名古屋本社(愛知県名古屋市中村区)のほか、工作機械製造の中核である伊賀事業所(三重県伊賀市)と、自動化システム専門の奈良事業所(奈良県大和郡山市、2025年に従来比4倍規模に拡張)を構える。オークマは本社・本社工場(愛知県丹羽郡大口町)を中心に、江南工場(愛知県江南市)・可児工場(岐阜県可児市)・群馬工場(群馬県太田市、2023年稼働)を展開する。ヤマザキマザックは本社・大口製作所(愛知県丹羽郡大口町、オークマ本社と同じ町)のほか、最大規模の美濃加茂製作所(岐阜県美濃加茂市)、大型機生産のいなべ製作所(三重県いなべ市)、部品加工の精工製作所(三重県桑名市)を構える。判明する国内主要拠点を地図に示す(海外拠点は対象外)。
出典: DMG森精機・オークマ・ヤマザキマザックいずれも公式サイトの事業所・生産拠点ページを参照。一部拠点(オークマ江南工場・可児工場)は町丁目までの住所しか判明せず、その場合は地図情報サービス(マピオン電話帳、NAVITIME等)で確認した。座標はOpenStreetMap Nominatimによる町丁目単位のジオコーディング。
事業戦略・今後の展望
DMG森精機は2026年8月に発表した2028年度までの中期事業計画で、受注額7,000億円・売上高6,800億円・EBIT685億円という、2023年度のピークを上回る新目標を掲げた。産業別では自動車関連を除く航空・宇宙・防衛・メディカル・データセンター・電力・エネルギー・船舶・金型など幅広い産業で受注が伸びており、「脱自動車」の分散が業績を下支えする構図が鮮明になっている。同社社長は2030年に売上収益8,000億円・営業利益1,200億円(営業利益率15%)という、より長期の目標も掲げており、機械販売だけでなくパーツ・MRO(保守・修理・オーバーホール)・エンジニアリング部門を2,000億円規模まで育てる方針を示している。
オークマは2026年5月、2026〜2028年度を対象とする「中期経営計画2028」を発表した。「『ものづくりサービス』の力で、社会に貢献する」を存在意義に掲げ、「顧客起点の価値創造」と「事業基盤の改革」を主要方針とする。2026年3月期に売上高・純利益とも過去最高を記録したV字回復を受け、成長事業の創出と既存事業の深化を両輪で進める方針である。
ヤマザキマザックは非上場企業であるため中期経営計画のような数値目標は公表していないが、「Mazak iSMART Factory」を旗印にIoTで工作機械をネットワーク接続し、生産データの収集・分析による稼働率向上・省エネ・カーボンニュートラルの実現を進めている。自社工場で実証したDXの知見を顧客向けスマートファクトリーソリューションとして展開する取り組みも進めており、三重県いなべ市の大型機生産拠点は航空機部品向け需要を見込んだ投資とされる。財務情報こそ非公開だが、AI・IoTを活用した製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)への投資姿勢は、上場2社と方向性を同じくしている。
3社に共通する外部環境は、自動車業界向け需要の変調と、半導体・航空宇宙・データセンターなど非自動車産業からの需要拡大という産業構造の転換である。DMG森精機が「脱自動車」を明確に打ち出し、オークマが中期計画で成長事業の創出を掲げる一方、非公開企業であるヤマザキマザックの需要構造の変化は公開情報からはうかがい知れない——この情報の非対称性自体が、非上場企業を含む業界比較の難しさを物語っている。
参考リンク
- DMG森精機 公式サイト / 業績・財務
- オークマ 公式サイト / OSP-P500製品情報
- ヤマザキマザック 公式サイト
- DMG森精機の5軸加工機について
- DMG森精機【JP:6141】沿革(finboard)
- オークマ創業120年サイト
- ヤマザキマザック Mazakの会社を知る(採用サイト)
- IRBANK DMG森精機(6141) 業績 / IRBANK オークマ(6103) 業績
- MONOist「脱自動車でもDMG森精機が業績再上方修正、2028年度にピーク利益計画」
- 日刊工業新聞「DMG森精機、新中期業績目標発表 28年12月期に受注額7000億円」
- xTECH「DMG森精機社長『売上高8000億円達成は問題ない』」
- オークマ 中期経営計画(IR情報)
- kikai-news.net「オークマ、25年度売上は14.1%増の2,359億円」
- ヤマザキマザック Mazak iSMART Factory
- MONOist「ヤマザキマザックとシスコが挑むスマート工場化」
- ヤマザキマザック いなべ製作所 紹介ページ
- ニュースイッチ「工作機械、空へ照準 ヤマザキマザックが三重県に新工場」