産業用ロボットの世界市場は、ファナック・安川電機・スイスABB・ドイツKUKAの上位4社で大部分を占め、その半数を日本企業が占める数少ない先端製造分野である。国内首位のファナックと、ロボット単体の出荷実績で世界有数を誇る安川電機は、規模でも技術戦略でも異なる勝ち筋を描いている。ファナックは工作機械用CNC(数値制御装置)でも世界シェア約5割を握る高収益企業、安川電機はサーボモータ・インバータの世界首位メーカーでもあり、両社とも「ロボット単体」ではなく、自動化に不可欠な周辺技術を自前で持つことで競争力を築いてきた。

ファナックの溶接ロボットファナック
安川電機のMOTOMANロボット安川電機

画像: ファナックの溶接ロボット(Phasmatisnox, CC BY 3.0) / 安川電機のMOTOMANロボット(Michael KR, CC BY-SA 4.0)、Wikimedia Commons

企業の歴史: 富士通から分社したファナック、明治専門学校の創業者精神を継ぐ安川電機

ファナックの起源は1956年、富士通が稲葉清右衛門をNC(数値制御)装置の研究責任者に指名し、川崎工場で米MITに先行する形で研究を開始したことにさかのぼる。稲葉は1959年に電気・油圧パルスモータを独自開発してNC技術を確立し、1972年5月、富士通の計算制御部を分社化する形で富士通ファナック(現ファナック)を設立、専務取締役に就任した。1975年に社長就任後、NC装置からロボット・工作機械へと事業を拡大し、NC・ロボットともに世界的な高シェアを誇る企業へと育て上げた。1980年には本社機能を富士山麓の山梨県忍野村に移転し、以後「ファナックの森」と呼ばれる広大な自社完結型の生産拠点を築いている。

安川電機は1915年、安川敬一郎によって合資会社安川電機製作所として福岡県で創業した。安川は1909年に私財を投じて明治専門学校(現・九州工業大学)を開校するなど人材育成に注力した人物で、自らが興した明治鉱業の電気用品の開発・製造を目的に同社を設立した。1932年には電動機・制御器の専業メーカーへと転換し、モーション制御技術を核とする事業基盤を築いた。1977年には世界初の全電気式産業用ロボットを発表し、1990年には産業用ロボットのCIM(コンピュータ統合生産)システムを備えた「モートマンセンター」を開設するなど、創業から一貫してモータ・制御技術をロボット事業へと発展させてきた。

企業規模の比較: 過去5期の推移

決算期が異なる(ファナックは3月期、安川電機は2月期)ため、それぞれの決算期に沿って直近5期の推移を並べる。

決算期 ファナック 売上高 ファナック 営業利益 安川電機 売上収益 安川電機 営業利益
2022年3月/2月期 7,330億円 1,832億円 4,791億円 529億円
2023年3月/2月期 8,520億円 1,914億円 5,560億円 683億円
2024年3月/2月期 7,953億円 1,419億円 5,757億円 662億円
2025年3月/2月期 7,971億円 1,588億円 5,377億円 502億円
2026年3月/2月期 8,578億円(過去最高) 1,838億円(+15.7%) 5,421億円 473億円(減益)
指標 ファナック(2026年3月期) 安川電機(2026年2月期)
純利益 1,665億円(前期比+12.9%) 352億円(前期比-38.2%)
連結従業員数 10,040人 12,833人(2025年2月時点)

売上高ではファナックが安川電機のおよそ1.6倍の規模を持つ一方、従業員数は逆に安川電機の方が多いという逆転現象が起きている。両社とも2024年3月/2月期に半導体・電子部品市況の調整局面で減益を経験したが、その後の回復パターンは対照的である。ファナックは2026年3月期に売上高・営業利益とも過去最高圏まで回復し、純利益も12.9%増となった。一方、安川電機は2026年2月期に売上高がほぼ横ばいの中で営業利益・純利益とも減益となっており、電子部品・半導体関連市場の回復の鈍さが業績に重くのしかかっている。ファナックは工作機械のCNC事業も抱える高収益体質で知られ、安川電機はロボット事業に加えてサーボモータ・インバータなどのモーションコントロール事業も主力とする、より労働集約的な事業構成を持つとみられる。

主力製品・事業の比較

産業用ロボットの系譜と戦略

両社とも自動車産業向けロボットで世界的な地位を築いてきたが、その成り立ちと強みの領域は異なる。

ファナックは自動車工場で目にする「黄色いロボット」のほぼすべてを手がけ、国内の多関節ロボット市場でシェア首位、世界シェアでも約2割を握る。塗装・溶接・洗浄・パレタイジングといった大型工程に強みを持ち、近年は人と同じ空間で作業できる協働ロボット「CRX」シリーズを幅広い用途に展開している。CRXは可搬質量5kgから30kgまでの豊富なラインアップを揃え、人に接触すると軽い力で安全に停止する機能とダイレクトティーチによる簡易操作性を特徴とする。

安川電機は1977年に世界初の全電気式産業用ロボットを発表した、ロボット産業のパイオニアである。現行の「MOTOMAN」シリーズは累計出荷台数70万台を超え、自動車のスポット溶接・塗装ラインを中心に世界中で稼働している。ロボット本体だけでなく、駆動の心臓部となるサーボモータも自社開発している点が特徴で、モーションコントロール技術を土台にロボット事業を展開する垂直統合型のアプローチを取っている。

CNC(数値制御装置) vs サーボモータ・インバータ: それぞれの「隠れた本業」

ロボット単体の比較だけでは両社の全体像は見えない。ファナックはロボット事業と並ぶ柱として、工作機械用CNC装置で世界シェア約5割(国内シェア約7割)を握り、小型切削加工機・電動射出成形機などの「ロボマシン」事業ではロボドリルで世界シェア約8割を占める。FA(ファクトリーオートメーション)・ロボット・ロボマシン・IoTの4事業を柱に据え、「工場の自動化」という一貫したテーマ以外の領域には参入しないという明確な事業方針を貫いている。

安川電機はロボット事業と並ぶ柱として、AC(交流)サーボモータとインバータの両分野で世界シェア首位を握るモーションコントロール事業を持つ。サーボモータは半導体製造装置や電子部品実装機など高速・高精度な位置制御を要する機器に、インバータは大型空調設備・エスカレーター・エレベーターなどモータの回転速度制御に、それぞれ用いられる。世界30か国以上で事業を展開し、12か国28拠点に生産拠点を持ち、海外売上高比率は約7割に達する。

項目 ファナック(CNC・ロボマシン事業) 安川電機(モーションコントロール事業)
中核製品 工作機械用CNC装置、ロボドリル(小型切削加工機) ACサーボモータ、インバータ
世界シェア CNC約5割(国内約7割)、ロボドリル約8割 サーボモータ・インバータともに世界首位級
事業の位置づけ ロボット事業と並ぶ収益柱、FA/ロボット/ロボマシン/IoTの4本柱の一角 ロボット事業の心臓部(サーボモータを自社供給)であり、単独でも世界首位級事業

次世代技術: 安川電機の自律ロボット「MOTOMAN NEXT」とファナックのフィジカルAI

安川電機は近年、周囲の状況に応じて自律的に判断・駆動する新シリーズ「MOTOMAN NEXT」を投入している。従来の産業用ロボットは、あらかじめ教示された動作を正確に繰り返すことに特化していたが、MOTOMAN NEXTは米NVIDIA製のGPUを標準搭載し、膨大なセンサーデータや画像情報をリアルタイムに処理してAIと連携させることで、非定型な作業や環境変化への対応を目指している。

ファナックも2026年5月、米グーグルとの協業を発表し、企業向け生成AI「Gemini Enterprise」を含むGoogle Cloudの技術を活用した「産業用ロボットのAIエージェントシステム」の構築を進めている。人の簡単な指示をAIエージェントが理解し、物体を認識したうえで複数のロボット(協働ロボットと非協働ロボットの混成セルを含む)を駆動して作業させる仕組みで、ロボット基盤モデル研究への参画も進めている。あらかじめ教示された動作を正確に繰り返す機械から、状況を認識して判断する機械へ——両社が別々のアプローチ(安川電機は自社ハードへのGPU組み込み、ファナックはGoogleとのクラウドAI連携)で同じ方向を目指している点は、産業用ロボット業界全体の転換を象徴している。

開発・製造拠点

ファナックは本社(山梨県南都留郡忍野村)の広大な自社完結型拠点「ファナックの森」を中心に、栃木県壬生町・茨城県筑西市・鹿児島県霧島市に国内工場を構える。安川電機は本社(北九州市八幡西区)の敷地内にロボット組立工場・安川テクノロジーセンタなどを集約する「ロボット村」を持ち、福岡県中間市(中・大型ロボット組立)、福岡県行橋市(インバータ)、埼玉県入間市(モーションコントロール、次世代生産工場「安川ソリューションファクトリ」)に国内工場を展開する。判明する国内主要拠点を地図に示す(海外拠点は対象外)。

出典: ファナックは公式サイト「工場」ページ(会社案内)。安川電機は公式サイト「国内ネットワーク」ページ。両社とも住所の詳細(号地番)が非公表の拠点は、地図情報サービス(マピオン電話帳、Yahoo!地図等)で町丁目単位の所在地を確認した。座標はOpenStreetMap Nominatimによる町丁目単位のジオコーディング。

事業戦略・今後の展望

ファナックは正式な数値目標を伴う中期経営計画を公表しない方針で知られ、創業者・稲葉清右衛門が掲げた「狭い路(Narrow Path)を真っすぐ歩む」という経営哲学のもと、FA・ロボット・ロボマシン・IoTという「工場の自動化」領域に一貫して経営資源を集中させてきた。この保守的な財務運営と豊富な手元資金が、2026年5月に発表したGoogleとの協業のような機動的な技術提携を可能にしている。2026年1月には協働ロボットの受注動向が市場から好感され株価が上昇するなど、AI・ロボットへの投資期待は高い一方、通期業績予想が未達に終わる場面もあり、半導体・電子部品市況の波を強く受ける事業構造は変わっていない。

安川電機は2026年5月、2026年度から2029年度(2030年2月期まで)を対象とする新たな中期経営計画「Dash 35」と、その先を見据えた長期経営計画「2035年ビジョン」を発表した。「Dash 35」では最終年度の営業利益目標を1,000億円と、2026年2月期実績(473億円)の2.1倍水準に設定し、フィジカルAIを重点領域に据えて成長市場を取り込む方針を掲げている。従来から掲げるソリューションコンセプト「i³-Mechatronics」(情報・技術・現場の3つの「i」を核とする自動化提案)を軸に、AI技術を組み込んだロボット・モーションコントロール製品の展開を加速させる考えである。

両社に共通する外部環境の課題は、自動車産業向け需要の変動と、中国をはじめとするアジア勢のロボットメーカーの台頭である。中国メーカーはサーボモータ・ロボットの両分野で急速に技術力を高めており、安川電機は中国拠点での適地開発・生産を進めることで対抗している。ファナックと安川電機は、AIを組み込んだ次世代ロボットという同じ方向を目指しながらも、前者は保守的な財務運営に支えられた機動的な技術提携、後者は数値目標を明示した中期経営計画という、経営スタイルの違いを保ったまま競争を続けている。

参考リンク

#産業用ロボット #ファナック #安川電機