油圧ショベル、ブルドーザー、ダンプトラック――土木・鉱山・解体の現場を動かす建設機械市場は、米キャタピラーが世界首位を守り、コマツがそれに次ぐ。日立建機はさらにその下に位置するが、国内シェアではコマツに次ぐ2位につける。企業規模で3倍近い差を抱えながら、両社は超大型油圧ショベルの性能で互角以上に渡り合い、技術戦略では施工現場全体をICTで面制圧するコマツと、油圧ショベル単体の性能を点で磨き上げる日立建機という、対照的な戦い方を見せる。

コマツの小型油圧ショベル(PC138US)コマツ
日立建機の鉱山用大型油圧ショベル日立建機

画像: コマツの小型油圧ショベル(PC138US)(CC BY 2.0)/ 日立建機の鉱山用大型油圧ショベル(Sandrerro, CC BY-SA 3.0)、Wikimedia Commons。いずれも本文で比較する最上位機種(PC9000-12/EX8000)そのものではなく、各社製品ラインの一例。

企業の歴史: 鉱山から生まれたコマツ、日立から独立した日立建機

コマツの起源は1917年、石川県の銅山経営会社・竹内鉱業が開設した小松鉄工所にさかのぼる。1921年に竹内鉱業から分離独立して小松製作所が発足し、1924年に市販プレス機第1号、1931年に国産初の農耕用トラクターを完成させた。1943年には国産ブルドーザーの原型とされる「小松1型均土機」を、1947年には「D50ブルドーザー」1号機を送り出し、1968年から油圧ショベルの生産に参入して総合建機メーカーへと足場を固めた。2017年には米鉱山機械大手ジョイグローバルを買収し、鉱山機械分野を一気に強化している。

日立建機は日立製作所の一部門として出発した。日立製作所は1955年にアフターサービス専門会社を、1965年に販売会社(旧・日立建機)を、1969年に製造会社(日立建設機械製造)をそれぞれ分社化し、1970年10月にこの2社を合併して製販一体の新生・日立建機を発足させた。以来55年にわたり日立グループの一員として成長してきたが、2022年に日立製作所の連結子会社から持分法適用会社へ移行し、2025年11月にはさらに株式の追加売却が行われるなど、資本面での独立が進んでいる。この流れの先に、2027年4月の社名変更(後述)がある。

企業規模の比較: 過去5期の推移

単年度の数値だけでなく、直近5期(2022年3月期〜2026年3月期)の推移で見ると、両社の成長パターンの違いがより鮮明になる。

決算期 コマツ 売上高 コマツ 営業利益 日立建機 売上収益 日立建機 営業利益
2022年3月期 2兆8,023億円 3,170億円 1兆249億円 1,066億円
2023年3月期 3兆5,435億円 4,907億円 1兆2,649億円 1,357億円
2024年3月期 3兆8,651億円 6,072億円 1兆4,059億円(過去最高) 1,627億円(過去最高)
2025年3月期 4兆1,044億円 6,571億円(ピーク) 1兆3,712億円(減収) 1,547億円(減益)
2026年3月期 4兆1,327億円 5,673億円(減益) 1兆4,054億円(回復) 1,301億円(減益続く)
指標 コマツ 日立建機
従業員数 単独 66,697人 単独 5,800人・連結 約26,200人(2024年3月時点)
国内建機シェア 1位 2位(世界では米キャタピラー・コマツに次ぐ3位グループ)

コマツは5期連続で増収を続け、2022年3月期から2026年3月期にかけて売上高は約1.5倍に伸びた。日立建機は2024年3月期に売上・利益とも過去最高を記録した後、2025年3月期に欧州・北米・アジアの主要市場での需要減退により減収減益に転じ、2026年3月期は売上高こそ過去最高圏まで回復したものの、営業利益は4期連続で伸び悩んでいる。売上高が戻っても利益率が戻り切っていないという非対称な回復こそが、日立建機が後述の大規模な事業構造改革(LANDCROS)に踏み切る背景である。

主力製品の比較: 超大型油圧ショベル

建機メーカーの技術力が最も分かりやすく現れるのが、鉱山向けの超大型油圧ショベルである。両社ともに数百トン級の機体を持つ。

項目 コマツ PC9000-12 日立建機 EX8000
運転質量 約896t(バックホー仕様)/884t(フロントショベル仕様) 約800〜811t
バケット容量 49m³(バックホー)/46m³(フロントショベル) 40m³
エンジン出力 1,678kW級エンジン×2基、合計3,356kW(約4,500馬力) (公開資料では機種ごとの出力表記が中心)
特徴 コマツPCシリーズの最上位機種。バケット容量・リーチ・掘削力いずれも同社最大 世界最高水準級の運転質量。車体全長約12m・全高9.9mと3階建てビルに匹敵する高さ

コマツのPC9000-12はツインエンジン構成で合計3,356kWという圧倒的な出力を持ち、バケット容量でも日立建機のEX8000を上回る。一方、日立建機はEX8000(800t級)からEX1900(190t級)まで超大型油圧ショベルのラインナップを幅広く揃えており、現場の岩盤硬度や積載するダンプトラックのサイズに応じて機種を選べる体制を敷いている。

ホイールローダー: 正面から重なる領域

超大型油圧ショベル以上に、ホイールローダーは両社の製品が直接ぶつかる領域である。

項目 コマツ WA480-11 日立建機 ZW310-6
運転質量 27,845kg 23,760kg
バケット容量 4.9m³ 4.2m³
エンジン 新型「DBA127」、従来型比でエンジン定格出力+21% カミンズQSL9、最大出力(ネット)203kW
最高走行速度 (資料非公開) 時速35.9km

コマツのWA480-11は2025年12月に投入されたばかりの新型で、新エンジンによる出力向上を最大の訴求点にしている。日立建機のZW310-6は米カミンズ製エンジンを採用し、燃料タンク375L・尿素水タンク35Lという長時間稼働仕様を備える。運転質量・バケット容量ともコマツがやや上回るが、この階級は両社とも継続的にモデルチェンジを重ねており、数年単位で優劣が入れ替わる競争が続いている領域でもある。

ブルドーザー: コマツの独壇場

一方、ブルドーザーは日立建機がそもそも製品を持たない領域である。コマツの主力機D475A-8Rは運転質量112.1t・全長11.3mという超大型ブルドーザーで、鉱山の大規模整地・掘削に投入される。日立建機は油圧ショベル・ホイールローダー・ダンプトラックには参入している一方、ブルドーザー市場には歴史的に参入しておらず、この点は「両社を全方位で比較できるわけではない」ことを示す好例でもある。

電動化: バッテリー方式の違い

両社とも小型機の電動化を進めているが、アプローチが異なる。コマツのPC33E-6(3トンクラス電動ミニショベル)は35kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、専用急速充電器での充電を前提に2023年10月に国内投入した。日立建機はZX55U-6EB(5tクラス)・ZE85(8tクラス)・ZE135(13tクラス)の3機種を国内販売しており、バッテリー駆動とケーブル給電(商用電源からの直結)を現場の状況に応じて併用できる点が特徴である。充電インフラも、メインユニット・サブユニット・急速充電ユニットの3種を自由に組み合わせられる可搬式充電設備を用意し、急速充電ユニット使用時は充電時間を約半分に短縮できるとしている。コマツが「バッテリー単独駆動」を追求するのに対し、日立建機は「充電インフラごと現場に持ち込む」設計思想を取っている。

技術戦略の違い: 「面」のコマツ、「点」の日立建機

両社の技術戦略には明確な違いがある。

コマツは「スマートコンストラクション」を旗印に、ICT建機・ドローン測量・施工管理システムまでを一気通貫で提供する「面」の戦略を取る。象徴的なのが鉱山向け無人ダンプトラック運行システム(AHS)で、2008年の世界初商用導入以来、6か国で24時間365日稼働し、累計運搬量は115億トンを超えている。2026年4月には、この超大型自動運転ダンプトラックの累計導入台数が世界で初めて1,000台に到達したと発表した。有人運転と比較して15%以上のコスト削減、急加速・急ハンドルの低減によるタイヤ寿命40%改善という定量的な効果も公表されており、コマツはトヨタ自動車とも協業し、AHSの現場を走る小型車両(ライトビークル)の自動化にも取り組んでいる。

日立建機は油圧ショベル単体の機能強化に重点を置く「点」の戦略を取る。3Dマシンガイダンスを既存機に後付けできる「Solution Linkage MG」や、保守・点検データとAIを組み合わせて故障予兆を検知する「ConSite」がその代表例で、ConSiteのAI活用による故障予兆検知率は90%に達しているという。自社の全工程を面で覆うのではなく、個々の機能を磨き上げて他社製品にも展開できる形にする戦略は、親会社である日立製作所のIoT基盤「Lumada」との連携も視野に入れたものである。

開発・製造拠点

コマツは本社(東京都港区)のほか国内に12の生産・技術拠点を、日立建機は本社(東京都台東区)のほか国内に6つの生産拠点を構える。判明する国内拠点を地図に示す(海外拠点は対象外)。

出典: コマツは公式サイト「地域別拠点一覧」(住所・機能とも一次情報)。日立建機は公式サイト「事業所一覧」に掲載の工場名をもとに、住所は地図情報サービス(NAVITIME等)で個別に確認(土浦工場の「マザー工場」的位置づけ以外、各拠点の詳細な機能分担は非公表)。座標はOpenStreetMap Nominatimによる町丁目単位のジオコーディング。

事業戦略・今後の展望: コマツの「拡大均衡」、日立建機の「社名を賭けた再編」

コマツは2025年4月、2025〜2027年度の新中期経営計画「Driving value with ambition 価値創造への挑戦」を始動した。前中計「DANTOTSU Value」の路線を継承しつつ、「イノベーションによる価値共創」「成長性と収益性の追求」「経営基盤の革新」の3本柱を掲げ、自動化・電動化・DXへの投資とアジア・アフリカなど成長地域への展開を軸に、3年間累計で1兆円のフリーキャッシュフロー創出という財務目標を設定している。AHSの1,000台到達(前述)や電動ミニショベルの投入は、この中計が掲げる方向性を先取りする動きと位置づけられる。

日立建機はより踏み込んだ一手を打った。2025年度からの中期経営計画「LANDCROS 2028」で3年間5,000億円の成長投資を掲げ、2030年の業界トップ3入りを目標に据えた上で、2027年4月1日に商号を「ランドクロス株式会社」に変更すると2025年に発表している。新ブランド名「LANDCROS」はLAND(大地)にCustomer(顧客)・Reliable(信頼)・Open(開放)・Solutions(ソリューション)を組み合わせた造語で、油圧ショベル単体の販売から、AIとデジタル技術を組み合わせたソリューション提供企業への転換を掲げる。この社名変更は、日立製作所が2022年に日立建機を連結子会社から持分法適用会社へ移行させ、2025年11月にも保有株式を追加売却したという資本関係の変化と軌を一にしており、75年間名乗ってきた「日立」の名を離れて独立性を高める節目となる。前述の「売上高は回復したが利益率が戻り切っていない」という2026年3月期の決算が示す通り、日立建機にとって社名変更は単なるブランディング施策ではなく、収益構造そのものを立て直すための事業再編の看板でもある。

参考リンク

#建設機械 #コマツ #日立建機