トラクター、コンバイン、田植機――日本の農業を機械化する農業機械市場では、クボタが売上高・国内シェアともに首位を圧倒的な差で守り、ヤンマー(ヤンマーホールディングス)がおよそ2.5〜3分の1の規模でこれを追う。両社とも出自は農機とは異なる分野にある。大出鋳物として始まったクボタは水道用鋳鉄管の製造で足場を固めてから農業機械に参入し、山岡発動機工作所として始まったヤンマーは世界初とされる小形実用ディーゼルエンジンを武器に農業機械市場へ入っていった。企業規模で大きな差を抱えながら、自動運転コンバインの実用化競争や、営農支援クラウドの作り込みでは互角以上の火花を散らしている。

クボタの自動運転トラクター(AgriRobo MR1000A)クボタ
ヤンマーのコンセプトトラクター(YT01、デザインスタディ)ヤンマー

画像: クボタの自動運転トラクター(AgriRobo MR1000A、Agritechnica 2023展示)(MarcelX42, CC BY-SA 4.0) / ヤンマーのコンセプトトラクター(YT01)(CC0)、Wikimedia Commons。ヤンマー側はデザインスタディの展示車両であり、本文で比較する量産機YT5114Sそのものではない。

企業の歴史: 鋳物から農機へ進んだクボタ、ディーゼルエンジンから農機へ進んだヤンマー

クボタの起源は1890年2月、19歳の大出(のちの久保田)権四郎が大阪で興した鋳物業「大出鋳造所」にさかのぼる。秤や日用品向けの鋳物製造から出発し、1893年に水道用鋳鉄管の製造に着手、1897年には社名を「久保田鉄工所」に改めて消火栓や制水弁など上下水道関連製品へと事業を広げた。1922年に農業用発動機・省力機器の分野に進出し、1939年に株式を公開。1947年には耕うん機第1号「K1形」を発売して農業機械分野に本格参入し、1953年には社名を「久保田鉄工株式会社」に改めると同時に建設機械分野にも進出した。1960年に国産初とされる畑作用乗用トラクター「T15」を、1962年には水田用乗用トラクター「L15R」を発売し、現在まで続くトラクター事業の基盤を築いている。1990年、創業100周年を機に社名を現在の「株式会社クボタ」に改めた。近年は海外展開を加速させており、2022年にはインドのトラクターメーカー、エスコーツ社を連結子会社化している。

ヤンマーの起源は、山岡孫吉が1907年に大阪で開いたガスエンジンの転売・改造業「山岡瓦斯商会」にさかのぼる。1912年3月22日、山岡はここから独立して「山岡発動機工作所」を創業し、第一次大戦後の1920年からは農業用石油発動機の自社製造に乗り出した。1930年にドイツの見本市でディーゼルエンジンの燃費性能に衝撃を受けた山岡は小形化に執念を燃やし、1933年に世界初とされる小形実用ディーゼルエンジン「HB形」(3馬力、重量500kg)を完成させ、国立科学博物館の未来技術遺産にも登録されている。1952年に社名を「ヤンマーディーゼル株式会社」に改め、1961年には「ヤンマー農機株式会社」を設立して農業機械事業に本格参入、1963年には初の乗用トラクター「YM12A」を発売した。2002年に社名を「ヤンマー株式会社」に変更した後、2013年4月には持株会社体制に移行して「ヤンマーホールディングス株式会社」を設立、2020年には事業会社としてのヤンマー株式会社を「ヤンマーパワーテクノロジー株式会社」に改称するなど、グループ経営体制の再編を重ねてきた。

企業規模の比較: 直近5期の推移

両社は決算期が異なる(クボタは12月期、ヤンマーホールディングスは3月期)ため、単純な同一暦年比較はできない。それぞれの直近5期をそろえて並べると、成長パターンの違いが見えてくる。

# クボタ 決算期 売上高 営業利益 ヤンマーHD 決算期 売上高 利益
5期前 2021年12月期 2兆1,968億円 2,462億円 2022年3月期 8,714億円 経常利益 489億円
4期前 2022年12月期 2兆6,788億円 2,189億円 2023年3月期 1兆222億円 経常利益 618億円
3期前 2023年12月期 3兆207億円 3,288億円(ピーク) 2024年3月期 1兆814億円 経常利益 804億円
2期前 2024年12月期 3兆163億円 3,156億円 2025年3月期 1兆796億円 経常利益 410億円(前期比-49%)
最新期 2025年12月期 3兆189億円 2,655億円 2026年3月期 1兆2,220億円(過去最高) 営業利益 471億円(前期比+10%)

ヤンマーホールディングスは非上場(社債のみ発行)で、決算開示では経常利益を主指標として公表することが多い。2026年3月期については報道で営業利益(471億円)の実績値が確認できたためこれを記載したが、それ以前の期は経常利益ベースの数値であり、両者は単純比較できない点に留意されたい。

指標 クボタ ヤンマーホールディングス
連結従業員数 52,503人(2025年12月期) 26,671人(2025年3月末時点)
株式の上場区分 東証プライム上場 非上場(社債発行のみ)
主な事業構成 機械部門が売上高の87.1%(2兆6,286億円、2025年12月期) 農業機械・建設機械・エンジン・エネルギーシステム・舶用システム等

売上高で見るとクボタは直近期でヤンマーのおよそ2.5倍の規模がある(3兆189億円 対 1兆2,220億円)。長らく「約3倍」とされてきた差は、ヤンマーが2026年3月期に円安効果やデータセンター向け発電設備の需要拡大を追い風に売上高で過去最高を更新したことでやや縮んだ。事業構成を見ると、クボタは機械部門(トラクター・コンバイン等の農業機械が中核)が売上の9割近くを占める専業色の強い構成である一方、ヤンマーは農業機械に加えて建設機械(ミニショベル等)・エンジン・発電設備・舶用システムまで事業ポートフォリオが分散している。業績の推移も対照的で、クボタは5期のうち4期で増収を記録し2023年12月期に営業利益が過去最高(3,288億円)を付けた後、2期連続の減益が続く踊り場にあるのに対し、ヤンマーは2025年3月期に経常利益が前期比49%減という急落を経験してから2026年3月期に急回復するなど、振れ幅の大きい業績推移をたどっている。

主力製品の比較

大型畑作用トラクター

大規模農業向けの大型トラクターは、両社の技術力が集約される製品領域である。

項目 クボタ M7シリーズ(M7-174) ヤンマー YT5シリーズ(YT5114S)
最高出力 170馬力 114PS
エンジン 国内特殊自動車4次排ガス規制対応「クボタV6108」、パワーブースト機能搭載 尿素SCRシステム搭載の高出力コモンレール(CR)エンジン、4次排ガス規制クリア
特徴 クボタが自社開発した国内初の大型トラクタシリーズ。高負荷作業時も出力を維持 重けん引・耕うん・超低速掘り取り作業まで幅広く対応、最大油圧揚力4,500kgf

クボタのM7-174は170馬力とヤンマーのYT5114S(114PS)を数値上は上回るが、両シリーズとも国内向けの大型トラクターとしては上位クラスに位置し、輸出向け・北米向けにはさらに大型のシリーズをそれぞれ別途展開している。単純な馬力比較よりも、油圧揚力や作業機との相性、後述する自動操舵の精度が実際の選定では重視される。

コンバイン: 自動化範囲を競う開発競争

自脱型コンバインでも、両社は自動運転機能の実用化を競っている。クボタの「Agri Robo DR6130A」は自脱型コンバインとして業界で初めて運転者監視下での自動運転作業(刈取り・排出)を実現したとクボタ自身が公表している主力機で、2020年には機械工業デザイン賞IDEAにも入賞した。ヤンマーは2025年8月、従来モデルでは手動操作が必須だった「隅刈り」(ほ場の四隅を刈る複雑なハンドル操作)まで自動化した新型オートコンバイン3機種(YH6115A/YH6135A/YH7135A)を投入している。

項目 クボタ Agri Robo DR6130A ヤンマー YH6135A(新型オートコンバイン)
刈り幅 6条 6条
最高出力 130馬力 138馬力(ヤンマーコンバイン史上最大)
自動化機能 運転者監視下での自動運転(刈取り・排出)を自脱型コンバインとして業界で初めて実現(クボタ公表) 直進・刈取昇降・旋回・排出への移動に加え、操作が複雑な「隅刈り」まで自動化。最短2周目からオート走行可能
メーカー希望小売価格(税込) 2,605万9,000円 2,006万4,000円
発売時期 2020年時点で展開中(IDEA入賞) 2025年8月1日(新型オートコンバイン3機種の一つ)

馬力ではヤンマーのYH6135Aが138馬力とクボタのDR6130Aを上回るが、メーカー希望小売価格はクボタの方が高い。両社とも自脱型コンバインの自動化範囲を年々広げる開発競争を続けており、クボタは監視下での自動運転(刈取り・排出)を業界に先駆けて実用化したと主張する一方、ヤンマーは2025年の新型で自動化の対象を「隅刈り」にまで拡張し、オートモードの開始タイミングを従来の外周3周目から2周目へ前倒しした。どちらが厳密な意味で「初」かを一次資料のみで確定するのは難しいが、両社ともに自動化の適用範囲を広げる方向で開発が進んでいる点は共通している。

田植機: クボタが強いシェアを握る領域

田植機市場では、クボタが1986年に業界で初めて歩行型田植機を発売して以来、国内農業機械市場全体でおよそ6割のシェアを握るとされる。ヤンマーも乗用・歩行型田植機を継続して販売しており、運転席から手が届く植付け調節レバーや、手植えに近い精度で株間を調節できる「ジャストアーム」機能など独自の使い勝手を訴求しているが、公開情報からはクボタに匹敵する規模のシェアや「業界初」級のマイルストーンは確認できなかった。建設機械分野でコマツと日立建機がブルドーザーで非対称な関係にあるのと同様、農業機械でも両社が全カテゴリで互角に競っているわけではないことを示す一例と言える。

技術戦略・強みの違い: 自動運転とスマート農業の現在地

両社とも自動運転トラクターの実用化を進めているが、開発の歴史と現在の到達レベルに違いがある。

クボタは2017年に国内メーカーとして初めて自動運転トラクターのモニター販売を開始し、2018年に一般販売した先行者である。自動運転農機シリーズ「アグリロボ」では、RTK-GNSSユニット・サラウンドビュー・人や障害物を検知するシステムの3つの技術を組み合わせ、有人監視下での無人機単独運転や、作業者1人が無人機と有人機の2台を同時に扱う協調運転を実現している。

ヤンマーは2013年からロボットトラクターの開発に着手し、2018年に自動運転技術「SMARTPILOT」搭載シリーズの第1弾として、無人運転が可能な「ロボットトラクター」と、最小限の操作を人が行う「オートトラクター」を投入した。現行のロボット農機は自動化レベル2まで進んでおり、トラクターに乗車せず近距離監視下でタブレット1台から操作、作業者1人で2台を運用できる。2026年6月には大規模農地向けの新型「YT4S/5Sシリーズ」を投入し、RTK-GNSS方式の自動操舵で誤差±2〜3cmという高精度な直進作業を実現している。

両社の自動運転技術はいずれもRTK-GNSS(高精度衛星測位)を基盤とする点で共通しており、業界全体でこの方式が事実上の標準になりつつある。

農機本体の自動化に加えて、両社は営農支援クラウドの作り込みでも異なる戦略を取る。クボタの「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」は、ほ場管理・作付け計画・作業日誌管理から、対応農機の稼働状況やメンテナンスが必要なタイミングの通知までを一つのクラウド基盤に統合し、登録ほ場100枚までは2年目以降も無料で使える裾野の広さを武器にする。ヤンマーの「スマートアシスト」は、ほ場ごとの天気予報や積算温度の自動取り込み、専用スマートフォンアプリでの日報記録など、日々の営農判断を支援する機能に重点を置く。建設機械分野でコマツが施工現場全体を「面」で管理するスマートコンストラクションを掲げ、日立建機が油圧ショベル単体の機能強化という「点」に注力するのと似た構図が、農業機械分野でもクボタとヤンマーの間に見て取れる。

開発・製造拠点

クボタは本社(大阪市北区)・東京本社のほか、堺製造所(マザー工場)や筑波工場、宇都宮工場など国内に多数の生産・研究拠点を構える。ヤンマーはグループ本社(大阪市北区茶屋町)を中心に、滋賀県長浜市のびわ工場・木之本工場(小形エンジン)、ヤンマーアグリの岡山・高知・鹿児島の各拠点など、農業機械・エンジン関連拠点を国内各地に展開する。確認できた国内拠点をクボタ10か所・ヤンマー6か所、地図に示す(海外拠点、および両社の水インフラ・建設機械など農業機械以外の事業に紐づく拠点も一部含む)。

出典: クボタは公式サイト「拠点情報」の一覧(住所は一次情報だが、同ページは各拠点の取扱製品を明記していないため、機能は個別のニュースリリース・地域紹介記事等で補足確認。水・環境事業など農業機械以外の拠点も一部含む)。ヤンマーは公式サイトの各グループ会社ページ(ヤンマーパワーテクノロジー、ヤンマーアグリ等)に掲載の拠点名をもとに、住所はYahoo!地図・NAVITIME等の地図情報サービスで個別に確認(公式の統合拠点一覧ページはWebFetchでアクセスできなかったため代替)。座標はOpenStreetMap Nominatimによる町丁目単位のジオコーディング(鹿児島事業所・高知工場の一部は詳細な番地が確認できず、より広い範囲での近似)。

事業戦略・今後の展望

クボタは2026年2月13日、2030年12月期を最終年度とする新中期経営計画「Focus & Breakthrough」を発表した。従来の物量重視(シェア拡大)路線から、バランスシートを意識した「企業価値経営」への転換を掲げ、5年間で約1兆4,000億円を投資に振り向ける計画である。事業ポートフォリオを成長けん引事業・価値再構築事業・構造改革事業に再分類し、建機事業・インド発事業・ライフサイクルサポート事業の3分野で高い成長率(CAGR)を目指す。M&Aでも選別が進んでおり、2022年のインド・エスコーツ社連結子会社化や2024年9月の米AI画像診断スタートアップ、Bloomfield Robotics社のグループ会社化で成長領域に資源を投じる一方、非中核事業の整理も並行して進めている。

ヤンマーホールディングスは2026年3月23日、2030年度を最終年度とする中期経営計画「MTP2030」を「A SUSTAINABLE FUTURE」の実現に向けて策定したと発表した。2030年度に売上高1兆5,000億円・ROS(売上高利益率)8%以上を掲げ、「グローバルTier1の実現」を戦略優先事項の一つに据える。あわせて、製品販売から顧客の課題解決へとビジネスモデルをシフトする新規事業創出にも力を入れ、2040年までに新規事業領域だけで売上高2,000億円規模を目指す。M&Aでは、2025年にオランダのバッテリー電動化技術企業ELEO Technologies社の株式過半数を取得して電動化を加速させる一方、欧州の中小型建機事業では再編に伴う特別損失を2026年3月期に計上しており、成長領域への投資と不採算領域の整理を同時に進めている。

両社に共通するのは、単純な規模拡大から利益率・資本効率を重視する経営への転換であり、その裏側で成長領域への選別投資と非中核事業の整理が並行して進んでいる点である。

参考リンク

#農業機械 #クボタ #ヤンマー