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前提と読み方

前提知識 力・運動・エネルギーの基本用語。関連する基礎記事を参照しながら読めます。

入門 · 原理・構成・判断のための解説です。

クレーンの性能というと「何トン吊れるか」を思い浮かべやすい。しかし同じ機体でも、ブームを伸ばして遠くを吊るほど、あるいはブームを寝かせるほど、吊れる荷重は小さくなる。クレーンの定格荷重はエンジン出力やワイヤーロープの強度だけでなく、「機体が転倒しない範囲」という幾何学的な制約で決まる。この転倒しない範囲をどう設計し、どう監視するかが、クレーン工学の中心である。

フランスの市街地に立つPotain K5 50Cタワークレーンタワークレーンの実機例

画像: Potain K5 50C(Alexandre Prevot, CC BY-SA 4.0)、Wikimedia Commons。本文で扱うコベルコ・タダノ・Liebherrの特定型式ではなく、ブームとカウンターウェイトの配置を読むためのタワークレーンの代表例。

図1 · ボタンで表示を切り替え
旋回中心と転倒支点線を分けたクレーンのモーメント、および強度限界と安定限界から定格荷重を読む模式図

図1 — 作業半径Rは旋回中心から吊荷まで、転倒モーメントの腕は荷側の転倒支点線から吊荷までの距離であり、基準点が異なる。定格荷重は、現在のブーム・アウトリガー・カウンタウェイト構成に対応するロードチャートで、構造限界と安定限界の小さい方として読む。

0. 30秒要約

  • クレーンは大きく、車両として自走できる移動式クレーン(ラフテレーンクレーン、オールテレーンクレーン、トラッククレーンなど)、履帯で自走するクローラクレーン、地上に据え付けて自走しないタワークレーンに分かれる。法令上も「移動式クレーン」と「クレーン(タワークレーンを含む据付型)」は別のカテゴリで規制される。
  • 吊り荷Wと作業半径Rの積が転倒モーメントM_{tip}=WRを作る。車体重量とカウンタウェイトが作る安定モーメントM_{stab}がこれを上回る範囲でしか荷を吊れない。日本の規則では安定限界荷重が定格荷重の1.27倍以上になるよう定められている。
  • 定格荷重表(ロードチャート)は、ブーム長・角度・作業半径ごとに、転倒モーメントで決まる領域と、ブーム自体や巻上げ装置の構造強度で決まる領域の、小さい方の値を並べた表である。
  • 過負荷防止装置(モーメントリミッタ)は、荷重検出器とブーム角度・長さから転倒モーメントをリアルタイムに計算し、危険域で警報・自動停止をかける安全装置で、法令で備え付けが義務化されている。
  • コベルコのクローラクレーン、タダノのラフテレーンクレーン、リープヘルの移動式・タワークレーンは、いずれも公開仕様でこの力学を具体的な数値として確認できる。

1. クレーンを3つに分ける

クレーンは「何に載っているか」で機構と適用現場が大きく変わる。

  1. 移動式クレーン:タイヤで公道を走り現場で作業する。荒れた不整地に強いラフテレーンクレーン、高速道路も自走できるオールテレーンクレーン、トラックシャーシに架装したトラッククレーンなどがある。作業時はアウトリガーを張り出して接地面積を広げ、転倒モーメントに耐える。
  2. クローラクレーン:履帯で自走する。接地圧が低く軟弱地盤やプラント・風力発電基礎などの重量物据付に向く一方、公道を自走できないため輸送は分解・トレーラー輸送になる。ラチスブーム(トラス構造)を使う機種が多く、超大型機は定格総荷重が数百〜千トン級に達する。
  3. タワークレーン:地上または躯体に固定した塔状の構造にジブを載せ、建物の高層化とともに上へ伸びていく。自走しないため法令上は「移動式クレーン」ではなく、揚重能力より作業半径ごとの吊り上げ能力とジブの水平精度、そして解体・盛替え(クライミング)の手順が設計の中心になる。

この3分類は排他的ではない。ホイールクレーンのように移動式とクローラクレーンの中間的な機種もあり、どの分類に属するかより、「何を支点に、どうやって転倒モーメントへ対抗しているか」を読む方が実務的である。

2. ブームと定格荷重表の読み方

クレーンの定格荷重は、ブーム長l_b、ブーム角\theta(水平からの起伏角)、作業半径R(旋回中心から吊り荷までの水平距離)の組み合わせごとに決まる。ブーム角と長さが分かれば、作業半径とブーム先端の高さは

R = l_b\cos\theta + r_0,\qquad h = l_b\sin\theta + h_0

で近似できる(r_0,h_0は旋回中心からブーム基部までのオフセット)。同じブーム長でも、角度を寝かせるほどRは大きくなり、荷側の転倒支点線から吊荷までの水平距離r_{tip}も増えるため、定格荷重は下がる。

定格荷重表を見ると、作業半径が小さい領域では荷重がほぼ一定(構造強度やワイヤーロープ強度で頭打ち)になり、半径が大きくなるとほぼ1/Rに近い形で荷重が下がる領域に移る。前者を「強度限界」、後者を「モーメント限界(安定限界)」と呼ぶ。オペレーターが作業半径を変えるたびに定格荷重が変わるのは、この2つの限界のうち小さい方が常に採用されるためである。ジブを継ぎ足す、補助ジブを立てる、アウトリガー張り出し幅を狭めるといった構成変更は、どちらの限界にも影響するため、定格荷重表はブーム構成・アウトリガー張り出し・ジブ角度の組み合わせごとに別表が用意される。

3. 転倒モーメントと安定モーメント

クレーンが転倒するのは、アウトリガーの接地点を結んだ線(転倒支点線)を軸に、荷重側のモーメントが車体側のモーメントを上回ったときである。ここで作業半径Rは旋回中心から吊荷までの距離だが、転倒計算の腕r_{tip}は荷側の転倒支点線から吊荷までの水平距離である。単純化した静力学では、吊り荷Wによる転倒モーメントは

M_{tip} = W r_{tip}

である。これに対して、車体自重W_{body}とカウンタウェイトW_{cw}が転倒支点までの距離d_{body}, d_{cw}を使って作る安定モーメントは

M_{stab} = W_{body} d_{body} + W_{cw} d_{cw}

となる。転倒しないための最低条件はM_{stab} \ge M_{tip}だが、実際の運用では余裕を持たせる。日本の移動式クレーン構造規格に基づく安定度試験では、定格荷重の1.27倍に相当する荷重を最も不利な条件で吊っても転倒しないことが求められており、これは安定限界荷重と定格荷重の比の最小値を1.27とする規定に対応する。この安全率は、ワイヤーロープの伸び、風、地盤の不陸、荷の振れといった動的要因を見込んだものである。

タダノのラフテレーンクレーンGR-1000EX-4は、カウンタウェイトの装着位置を移設できる「スマートカウンタウェイト」機構を採用し、これによって安定性能を従来比で最大約22%向上させたと発表している。これは式の上では、d_{cw}(カウンタウェイトの転倒支点からの距離)を大きく取ることでM_{stab}を稼ぐ設計であり、同じカウンタウェイト重量でも定格荷重表を底上げできることを意味する。

4. アウトリガー反力と接地圧

4脚の反力を釣合い式だけから一意に求めることはできず、フレーム・ジャッキ・地盤の剛性や接触状態が関係する。ここでは一方向の理想化した2支持線モデルだけを考える。支持線間隔をL、左支持線から合成鉛直荷重Wの作用点までをxとすると、静的な力とモーメントの釣合いは

N_L=W\frac{L-x}{L},\qquad N_R=W\frac{x}{L},\qquad N_L+N_R=W

となる(0≤x≤L、鉛直荷重、剛体、両支持線が接地)。これは支持線ごとの合計反力で、個々のアウトリガー反力ではない。転倒側へ荷重を動かすと反対側の反力が0へ近づく。「安定モーメントの余裕」を最大荷重側の1脚の反力と読み替えない。実機の設置ではメーカーの反力資料と荷重表、敷板・地盤条件を使用する。 Tadano reaction data.

5. 過負荷防止装置(モーメントリミッタ)

モーメントリミッタは、巻上げワイヤーの張力を検出するロードセルと、ブームの起伏角度・長さのセンサーから、リアルタイムに転倒モーメントと定格荷重の余裕を計算する装置である。危険域に近づくと断続音の警報を出し、定格荷重を超えるおそれがある場合はブームの起伏・伸長・巻き上げなど危険側の動作を自動的に停止する。日本では移動式クレーン構造規格の改正により、荷重計に加えて過負荷防止装置の備え付けが義務化されている。

制御則を単純化すると、実荷重モーメントM_{load}=W_{sensed}R(\theta,l_b)と、その時点のブーム構成での定格モーメントM_{rated}を比較し、

\frac{M_{load}}{M_{rated}} \ge k_{warn}\ \Rightarrow\ \text{警報},\qquad \frac{M_{load}}{M_{rated}} \ge 1 \ \Rightarrow\ \text{危険側動作の自動停止}

という2段階のしきい値になる。これは油圧ショベルのマシンコントロールが「設計面を超えない」よう弁指令を制限するのと同じ発想で、力学モデルの計算結果を安全側の動作制限へ直結させる設計である。

6. 現行製品で見るクレーンの幅

メーカー・機種 分類 公開される主な仕様 特徴
コベルコ SL16000J クローラクレーン(超大型) 最大定格総荷重1,000t×5.4m プラント・風力発電基礎など重量物据付向けの最上位クラス
コベルコ 7200G クローラクレーン(中大型) 最大定格総荷重200t×5.0m 土木・建築の一般的な揚重に使われる中核機種
タダノ GR-1000EX-4 ラフテレーンクレーン 最大吊り上げ荷重100t、クラス最長51mブーム スマートカウンタウェイトで安定性能を約22%向上
リープヘル LTM 1120-4.1 オールテレーンクレーン 最大吊り上げ荷重120t、最大揚程91m、最大作業半径64.0m 公道走行と現場での高い機動性を両立する4軸機
リープヘル EC-Bシリーズ タワークレーン(フラットトップ) 最大吊り上げ荷重6〜16t、最大ジブ長58〜78m ジブとヘッドを軽量化し輸送・組立性を高めたフラットトップ形式

表を比較するときの注意点は、「最大吊り上げ荷重」は多くの場合、最小作業半径に近い1点の数値であり、実際の現場条件(必要な作業半径、ブーム構成、アウトリガー張り出し幅)における定格荷重はこれより小さくなることがほとんどだという点である。機種選定では、単一の最大値ではなく、現場で必要な作業半径・揚程における定格荷重表の該当セルを確認する必要がある。

7. まとめ:クレーンは「力の機械」であり「幾何の機械」である

クレーンの能力は、油圧やワイヤーロープの強度だけで語れない。ブーム角と作業半径がつくる転倒モーメントを、車体重量・カウンタウェイト・アウトリガーの張り出しがつくる安定モーメントで上回り続けることが、吊り上げの大前提になる。定格荷重表、過負荷防止装置、アウトリガーの敷板は、いずれもこの一つの不等式M_{stab}\ge M_{tip}(に安全率を掛けたもの)を、現場条件ごとに具体化した道具である。カタログの最大吊り上げ荷重だけでなく、どの作業半径・ブーム構成でその数値が成立するのかを読む習慣が、クレーンを安全に選定し運用する第一歩になる。

理解を確かめる
同じ荷重でも遠くへ伸ばすと何が変わる?

荷重によるモーメントが増える。実機の可否は単純な力学式だけで決めず、姿勢・設置条件に対応する定格荷重表で確認する。

参考資料

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