車載電池からデータセンター向け蓄電池、防衛・宇宙用途まで、電池は日本の重電・電子部品メーカーが総力を挙げる成長分野である。だが「電池メーカー」と一括りにしても出自と戦略はまったく異なる。パナソニック エナジーは三洋電機の電池事業を取り込み、テスラ向け円筒形セルの世界最大級サプライヤーへと成長した「電池専業」に近い事業会社である。GSユアサは1895年創業の鉛蓄電池の老舗・日本電池を源流に持ち、自動車用鉛蓄電池という基幹事業を守りながら、潜水艦・人工衛星・航空機という特殊用途のリチウムイオン電池で高い参入障壁を築いてきた。そして村田製作所は、セラミックコンデンサ等の電子部品を主力とするメーカーでありながら、2017年にソニーの電池事業を買収して電池業界に参入した「後発組」である。売上規模も成長トレンドも三者三様で、2026年3月期はパナソニック エナジー・GSユアサが増収増益・過去最高益を更新する一方、村田製作所のエナジー・パワー事業は3期連続で売上高が縮小している。

パナソニックロゴパナソニック エナジー
村田製作所ロゴ村田製作所

画像: Panasonicロゴ / 村田製作所ロゴ(いずれもパブリックドメイン、単純な図形・文字のみのため著作権の保護対象とならないとWikimedia Commonsが判定)、Wikimedia Commons。GSユアサは著作権上使用可能なロゴがWikimedia Commonsに見つからなかったため画像を掲載していない。

企業の歴史: 三洋を統合したパナソニック、鉛蓄電池の老舗GSユアサ、ソニーから参入した村田製作所

パナソニックの電池事業の現在の姿は、2008年11月に発表した三洋電機との資本・業務提携に端を発する。三洋電機は太陽電池と自動車用電池を柱とする「エナジーデバイスカンパニー」を2011年4月に発足させるなど、電池事業を経営の軸に据えていた企業で、パナソニックは同社の買収に約8,000億円を投じた。2009年に三洋電機はパナソニック傘下に入り、2011年以降「SANYO」ブランドは国内市場から姿を消してパナソニックへ統合されていく。この三洋由来の電池事業(ニッケル水素電池・リチウムイオン電池・乾電池)が現在のパナソニック エナジーの技術基盤となっている。2022年10月、パナソニックグループは持株会社体制へ移行し、電池事業は事業会社「パナソニック エナジー株式会社」として独立した経営単位になった。

GSユアサの源流は1895年、島津源蔵が日本で初めて鉛蓄電池を製造したことに遡る。この技術は「日本電池(GS)」として発展し、戦後は自動車用・産業用鉛蓄電池の大手として国内市場を支えてきた。2003年7月、日本電池はもう一つの鉛蓄電池大手ユアサコーポレーションと経営統合の基本合意を締結、2004年4月に株式移転によって持株会社「株式会社ジーエス・ユアサ コーポレーション」を設立し、東京証券取引所・大阪証券取引所の各市場第一部に上場した。同年6月には事業を会社分割によって9社に再編し、製造・販売・電源事業などの機能別子会社体制を構築している。

村田製作所は1944年、村田昭が京都で創業したセラミックコンデンサを主力とする電子部品メーカーであり、電池は本来の祖業ではない。電池事業への参入は2016年7月28日、ソニーが子会社ソニーエナジー・デバイスの電池事業と中国・シンガポールの製造拠点を村田製作所へ譲渡すると発表したことに始まる。中国当局の審査で当初予定より遅れたものの、2017年9月1日に買収が完了し、全額出資子会社として設立した東北村田製作所(福島県郡山市、旧ソニーの主力電池工場)が事業を継承した。電子部品の主力事業に対して、電池事業は村田製作所にとって比較的新しく、かつ非中核の事業という位置づけが今なお続いている。

企業規模の比較: 三者三様の業績トレンド(過去4〜5期)

パナソニック エナジーは2022年10月の持株会社体制移行に伴いセグメント区分が変わったため、移行前後で厳密に連続した数値の開示は限られる。判明する範囲の売上高・(調整後)営業利益を示す。

パナソニック エナジー社(3月期、パナソニックホールディングス発表セグメント数値)

決算期 売上高 営業利益 / 調整後営業利益
2022年3月期(2021年度) 7,644億円 営業利益642億円(調整後682億円)
2024年3月期(2023年度) 9,159億円 調整後営業利益946億円
2025年3月期(2024年度) 8,732億円 調整後営業利益1,227億円
2026年3月期(2025年度、会社予想) 1兆390億円 調整後営業利益1,680億円

2023年3月期(2022年度)は複数ソースでの数値のクロスチェックができなかったため掲載を見送った。2026年3月期は2025年時点の会社予想であり、実績値ではない。

GSユアサ(3月期、日本基準連結)

決算期 売上高 営業利益
2022年3月期 4,321億円 84億円
2023年3月期 5,177億円 139億円
2024年3月期 5,629億円 416億円
2025年3月期 5,803億円 500億円
2026年3月期 6,090億円 602億円(いずれも過去最高)

村田製作所 エナジー・パワー事業(電池・電源、3月期、セグメント売上高)

決算期 売上高
2022年3月期 1,804億円
2023年3月期 2,146億円
2024年3月期 1,644億円
2025年3月期 1,557億円
2026年3月期 1,541億円

村田製作所はセグメント別の営業利益を開示していない。ただし2024年3月期には電池事業で495億円の減損損失を計上したことが報じられており、この期の落ち込みの一因になっている。

数字が語るのは対照的な物語である。パナソニック エナジーとGSユアサはいずれも直近期に売上高・利益とも過去最高水準を更新した一方、村田製作所のエナジー・パワー事業は2023年3月期の2,146億円をピークに3期連続で縮小し、2026年3月期は1,541億円とピーク比28%減に落ち込んでいる。電池を祖業とする2社が車載・産業向けの旺盛な需要を取り込んで成長する一方、電子部品メーカーである村田製作所にとって電池事業は収益性改善が最優先課題であり続けており、後述するマイクロ一次電池事業の譲渡のような事業ポートフォリオの絞り込みが進んでいる。

主力製品の比較

パナソニック エナジー: 車載用円筒形リチウムイオン電池

製品 概要 特徴
2170セル 円筒形リチウムイオン電池 米ネバダ工場に加え、カンザス州デソト工場で2025年7月14日に量産開始。両工場合計で年産約32GWh体制を目指す
4680セル 大型円筒形リチウムイオン電池 和歌山工場で量産を計画。次世代車載電池として開発を推進
民生・産業用電池 乾電池・ニッケル水素電池等 三洋電機から継承した民生・産業用電池ラインアップを含む

パナソニック エナジーの技術的な軸は、テスラ向けに供給してきた円筒形リチウムイオン電池の量産技術そのものにある。米国では従来の「北米一極集中」から「日米二軸」へと生産戦略を転換し、2025年7月にカンザス州デソト工場が本格稼働、2170セルの生産を開始した。国内では和歌山工場で次世代の4680セルを量産する計画を進めている。

GSユアサ: 鉛蓄電池からリチウムイオン電池まで、特殊用途に強い製品群

製品 概要 特徴
自動車用鉛蓄電池 エンジン始動用バッテリー 補修用市場向け販売が業績成長を牽引する主力製品
産業用電池電源 非常用電源・据置用鉛蓄電池等 非常用案件の増加が近年の増収要因
車載用リチウムイオン電池(ブルーエナジー) ホンダとの合弁会社ブルーエナジー(京都府福知山市)が生産 第2工場が2022年4月稼働、生産能力を年5,000万セルから2025年度に7,000万セルへ拡大する計画。2023年4月には経済産業省の「供給確保計画」認定を取得
潜水艦搭載リチウムイオン電池 海上自衛隊向け特殊電池 2017年3月に量産開始、日本初の潜水艦搭載リチウムイオン電池
宇宙用大型リチウムイオン電池 人工衛星・ロケット搭載電池 高度約36,000kmの静止軌道でも稼働する信頼性を持つ

村田製作所: 円筒形/コイン形リチウムイオン電池とFORTELION

製品 概要 特徴
円筒形/ラミネート型リチウムイオン二次電池 旧ソニー由来、東北村田製作所(福島県郡山市)が生産 スマートフォン・ノートPC・産業機器向け
FORTELION(フォルテリオン) オリビン型リン酸鉄正極を使った円筒形リチウムイオン電池 高い安全性を訴求し蓄電システム向けに展開
コイン形二酸化マンガンリチウム電池(CR電池) 一次電池 自動車のスマートエントリー・TPMS、IoT機器のメモリーバックアップ電源等に採用
全固体電池(開発中) 高容量ウェアラブル機器向け 容量2〜25mAhで他社開発品の約100倍の高容量化を狙うが、当初計画から量産開始が遅れ事実上停滞していると報じられている

技術戦略・強みの違い: 量産技術のパナソニック、特殊用途のGSユアサ、選択と集中の村田製作所

パナソニック エナジーの強みは、テスラ向けに培ってきた円筒形リチウムイオン電池の大量生産技術にある。もっとも車載電池事業は決して順風満帆ではなく、2024年5月には車載電池など重点領域の苦戦によってパナソニックホールディングス全体の中期目標が未達に終わったと報じられている。この反省を踏まえ、生産拠点を北米一極集中から日本(和歌山工場の4680セル)と米国(カンザス州デソト工場の2170セル)の「日米二軸」に再編し、2025年7月にカンザス工場が本格稼働した。一方で近年の実質的な成長ドライバーは車載事業だけでなく、生成AIブームによるデータセンター向け蓄電池需要の急拡大であり、車載電池と並ぶ柱として急成長していると報じられている。次世代技術としては、電極に金属リチウムを使わない「アノードフリー」構造で体積エネルギー密度1kWh/Lを実現する全固体電池の市場投入も視野に入れている。

GSユアサの強みは、自動車用鉛蓄電池という手堅い基幹事業を維持しながら、他社が容易に参入できない特殊用途のリチウムイオン電池で高い技術的信頼性を積み上げてきた点にある。2017年3月には海上自衛隊向け潜水艦搭載リチウムイオン電池の量産を開始し、日本で唯一の実績を持つ。人工衛星・ロケット向けの大型リチウムイオン電池も手がけ、高度約36,000kmの静止軌道という過酷な環境でも稼働する信頼性を確立している。もっともこの技術的信頼性は一度大きく揺らいだことがある。2013年1月、日本航空・全日空のボーイング787に搭載されたGSユアサ製リチウムイオン電池が相次いで発煙・発火し、世界中の同型機が運航停止に追い込まれる事態となった。米運輸安全委員会(NTSB)は最終報告で電池の製造過程に欠陥があったと結論づけている。この経験を経てなお、GSユアサは航空機・潜水艦・人工衛星という高信頼性が求められる特殊用途の電池事業を維持・拡大しており、2023年4月にはホンダとの合弁会社ブルーエナジー(京都府福知山市)による車載用リチウムイオン電池の増産計画が経済産業省の「蓄電池に係る供給確保計画」に認定されている。

村田製作所の電池事業における技術的な特色は、電子部品メーカーとしての強み——微細化・高密度実装技術——を電池に応用する点にある。象徴的なのが、ウェアラブル機器向けに開発中の高容量型全固体電池で、容量2〜25mAhと他社開発品の約100倍の高容量化を狙う。もっともこの技術は当初計画から量産開始が3〜4年遅れ、事実上凍結状態にあると報じられており、電子部品ほどには量産投資が積極化していない。実際、村田製作所は電池事業全体の収益性改善を最優先課題としており、2024年3月期には495億円の減損損失を計上、マイクロ一次電池事業を譲渡するなど、非中核事業としての選択と集中を進めている。

開発・製造拠点

パナソニック エナジーは本社(大阪府守口市)のほか、関西を中心に和歌山・住之江・洲本(南あわじ)・徳島など複数の工場を構える。GSユアサは本社(京都市南区)のほか、大容量リチウムイオン電池を手がける草津工場(滋賀県)、鉛蓄電池とリチウムイオン電池を生産する福知山・長田野事業所(京都府、ブルーエナジー工場も同市内)を主要拠点とする。村田製作所は本社(京都府長岡京市)のほか、旧ソニーから継承した東北村田製作所(福島県郡山市・本宮市)が電池生産の中心である。判明する国内拠点を地図に示す(海外拠点・小規模な子会社拠点は対象外)。

出典: パナソニック エナジーは公式採用サイト「事業所/拠点」掲載の拠点名をもとに、各拠点の所在地情報サイト(NAVITIME・Yahoo!地図等)で住所を確認した。GSユアサは公式サイト「事業拠点・グループ企業」を一次情報とした。村田製作所は東北村田製作所の公式所在地情報を使用した。座標はOpenStreetMap Nominatimによる事業所名検索を優先し(GSユアサ本社・福知山長田野事業所、村田製作所本社、パナソニック洲本/南淡拠点は施設ポリゴンと一致する結果を採用)、事業所名検索がヒットしなかった拠点(パナソニック本社・和歌山工場・住之江工場・徳島工場、GSユアサ草津工場、東北村田製作所郡山事業所・本宮工場)は町丁目・最寄駅・市区町村単位の近似座標を用いた。

事業戦略・今後の展望

パナソニック エナジーの2025年度(2026年3月期)業績見通しは、売上高が前年比19%増の1兆390億円、調整後営業利益が同453億円増の1,680億円と、車載・データセンター向け双方の成長を織り込む。生産面ではカンザス工場の32GWh体制構築と和歌山工場での4680セル量産が当面の焦点であり、中長期的には全固体電池の市場投入も視野に入れる。もっとも車載電池事業は米国の政策・需要動向に業績が左右されやすく、2024年度に中期目標が未達に終わった経緯を踏まえると、データセンター向け蓄電池という新たな成長領域へどこまで軸足を移せるかが今後の焦点になる。

GSユアサは2026年3月期に売上高6,089億9,500万円・営業利益601億7,200万円といずれも過去最高を更新した。成長要因は自動車電池(国内・海外)、産業電池電源、車載用リチウムイオン電池の販売増加に加え、海外自動車電池事業における米国IRA補助金の追い風もあった。ホンダとの合弁ブルーエナジーは2023年4月に経済産業省の供給確保計画認定を受けており、車載用リチウムイオン電池の生産能力を段階的に拡大していく方針である。祖業である鉛蓄電池事業も補修用需要を中心に堅調で、鉛蓄電池とリチウムイオン電池の「二本柱経営」がここへきて噛み合っている。

村田製作所にとって電池事業(エナジー・パワーセグメント)は、2026年3月期に売上高1,541億円と全社売上高の1割に満たない非中核事業であり、直近3期で売上高が縮小傾向にある。マイクロ一次電池事業を譲渡するなど、収益性の低い分野を切り離す動きも見られる。全固体電池のような次世代技術の開発は継続しているものの量産投資は抑制的であり、電子部品事業(コンデンサ等)の好調ぶりとは対照的に、電池事業は村田製作所の成長戦略における主役ではなく、事業ポートフォリオの中でどう位置づけていくかが問われる局面が続いている。

参考リンク

#電池 #パナソニックエナジー #GSユアサ #村田製作所 #リチウムイオン電池 #鉛蓄電池