LiDAR-SLAMは、レーザー測距センサーが返す点群データを使って自己位置推定と地図構築を行う技術群である。Visual-SLAMと比べて照明条件に左右されにくく、直接的な距離情報が得られる一方、点群同士の対応付け(スキャンマッチング)をいかに高速・高精度に行うかが技術的な核心になる。

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画像: Robot Operating Systemロゴ、Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

特徴抽出ベースの系譜: LOAMとその後継

初期の主流は、点群からエッジやプレーンといった幾何学的特徴を抽出し、それらを追跡してスキャン間の変位を推定する方式(LOAM系列)だった。処理の見通しは良いが、特徴抽出のパラメータ調整に手間がかかり、特徴に乏しい環境(単調な廊下など)で精度が落ちやすいという弱点があった。

スキャンマッチングの2つの基本アルゴリズム: ICPとNDT

LiDAR-SLAMの核心である「連続する点群スキャン同士、あるいはスキャンと地図の対応関係をどう求めるか」には、大きく2つの基本アルゴリズムがある。

ICP(Iterative Closest Point) は、2つの点群それぞれの点同士を距離に基づいて対応づけ、その対応関係の誤差が最小になるよう位置合わせ(剛体変換)を反復的に推定する手法である。単純な点対点(point-to-point)ではなく、点の局所的な幾何形状から法線ベクトルを求め、点と平面の距離を最小化する点対面(point-to-plane)方式にすると収束が速く局所解に陥りにくい。点\mathbf{p}_iに対応する平面が法線\mathbf{n}_i・平面上の点\mathbf{q}_iで表されるとき、点と平面の距離は

d_i = \mathbf{n}_i^{\top} (\mathbf{p}_i - \mathbf{q}_i)

で与えられ、求めたい回転\mathbf{R}・並進\mathbf{t}は次を最小化することで得られる。

\min_{\mathbf{R}, \mathbf{t}} \sum_i \left( \mathbf{n}_i^{\top} \left( \mathbf{R}\mathbf{p}_i + \mathbf{t} - \mathbf{q}_i \right) \right)^2

ただしLiDAR点群は垂直方向にスパース(層状)な構造を持つため、法線推定を素直に全点群へ適用すると精度が落ちるという固有の難しさもある。

NDT(Normal Distribution Transform) はICPとは異なるアプローチを取り、点群を格子状のボクセルに区切り、各ボクセル内の点群分布をガウス分布(正規分布)として表現する。個々の点同士を直接対応づけるのではなく、この確率密度関数同士の適合度を最適化することで、ノイズの影響を受けにくい位置合わせを実現する。

FAST-LIOのような直接法は、これら伝統的なスキャンマッチングの明示的な対応づけ処理そのものを回避し、点群を直接地図(ボクセル構造)へレジストレーションすることで計算効率を高めている点に特徴がある。

直接法への転換: FAST-LIO/FAST-LIO2

この弱点を解消したのが、明示的な特徴抽出を経ずに点群を直接地図へレジストレーションする「直接法」である。代表格がFAST-LIO2で、インクリメンタルなk-d木を用いた効率的な最近傍探索により、特にソリッドステート型LiDAR(Livox製品など)で高い効率を実現した。newbotでもFAST-LIOを自己位置推定の中核として採用している(詳細は「自己位置推定とセンサーフュージョンの仕組み」を参照)。

FAST-LIOの系譜はその後も拡張が続いている。視覚情報を統合したFAST-LIVO2(2025年、IEEE Transactions on Robotics)、FAST-LIO2をフロントエンドに据えマルチセッション動作と動的な地図更新に対応したLTA-OMなど、単体のオドメトリを超えて長期運用・大規模環境への対応が主な発展方向になっている。

2026年の新展開: D-LIOと軽量化・堅牢化の潮流

2026年にはIEEE Robotics and Automation Lettersに、FAST-LIO系列とは異なるアプローチのD-LIO(Direct LiDAR-Inertial Odometry)が発表されている。切り詰めた符号付き距離場(truncated distance field)によるマッピングを採用し、地図サイズに依らず地図更新を一定時間で行える点が特徴で、大規模環境でのスケーラビリティを重視した設計になっている。

このほかにも、高速自律移動を狙ったFAR-LIO、確認済みの開放・閉鎖環境の双方に対応するGenZ-LIO、完全性と汎用性を両立させたVoxel-SLAMなど、2026年に入ってからも多数の派生手法が論文誌・プレプリントサーバーに投稿され続けている。全体的な方向性としては、(1)特徴抽出を経ない直接法が主流になったこと、(2)視覚・LiDAR・IMUのマルチセンサー融合が標準的になりつつあること、(3)計算資源の限られたエッジ機での軽量化が引き続き重要な研究テーマであること、の3点にまとめられる。

2026年の高速化競争: 数値で見る改善幅

2026年に発表されたLiDAR-慣性オドメトリ(LIO)の派生手法は、単なる「新手法の提案」にとどまらず、具体的な数値で改善幅を示すものが増えている。自律レース向けにCUDAで並列化したFAR-LIO(2026年6月)は、時速250kmでの高速走行を想定した検証で、既存手法比で位置誤差6.9%減・実行時間38.4%減を達成したと報告している。楕円体表現を使って環境に応じて適応的に動作するEllipseLIO(2026年5月)は、比較対象の中で2番目に良い手法と比べてもオドメトリ誤差が平均35%低いと主張する。ソリッドステート型LiDAR向けに局所法線ベクトル拘束と縮退検知型の地図管理を組み合わせたEnvironment-Adaptive Solid-State LIO(2026年4月)は、幾何学的に縮退しやすい過酷環境でRMSE(二乗平均平方根誤差)を最大12.8%削減している。数値の絶対比較には前提条件の違いがあるため注意が必要だが、いずれも「特徴が乏しい・縮退しやすい環境でどこまで頑健か」という同じ課題に取り組んでいる点は共通している。

特殊環境への対応: マルチフロア・視覚融合・安全性

用途特化も進んでいる。エレベーター移動中の非慣性運動(エレベーターの加減速がIMU観測を撹乱する問題)に対応するElevator-LIO(2026年5月)は、ロボット自身の運動とエレベーターの運動を分離して推定する設計で、20系列・79回のエレベーター乗車という実データ検証で、17系列において到達階の高さ誤差1cm未満を達成している。ビル内を移動する配送・巡回ロボットのような、これまでLIO単体では想定しづらかった用途への広がりを示す例と言える。

視覚情報も統合したLiDAR-慣性-視覚オドメトリ(LIVO)の分野では、部分空間ごとの信頼度に応じて情報を重み付けするSA-LIVO(2026年6月)が、29本の公開データセット系列を横断するベンチマークで、組み込みハードウェア上でも計算負荷を抑えながら競争力のある精度を示している。ドローンへの実装を意識したFlight-Ready LiDAR-Inertial Odometry(2026年7月)は、既存実装のアーキテクチャ上のボトルネックを解消し、オドメトリの出力周波数を毎秒10回から200回まで引き上げている。全体として、2026年のLIO研究はFAST-LIO2が確立した「直接法」という土台の上で、(1)高速走行、(2)非慣性・特殊環境、(3)視覚情報融合、(4)組み込み機での高頻度出力という4つの軸に沿って専門化が進んでいる、と整理できる。

newbotでの実際の選定理由

newbotがFAST-LIO2を選んだ決め手は、Livox Mid-360が搭載する6軸IMU(角速度・加速度のみ、地磁気センサーなし)との相性だった。9軸IMU+GTSAMを前提とするLIO-SAM系の手法は、この機体のセンサー構成には不適合と判断している。実測でも、水平方向の周回誤差が経路長の1.0〜1.3%と、車輪オドメトリ単体(6.9〜27.4%)を大きく上回る精度が得られており、この選定は妥当だったと言える。

参考リンク

#LiDAR-SLAM #FAST-LIO