温度センサーは、対象物や周囲環境の温度を電気信号に変換するセンサーである。一口に「温度センサー」といっても内部で利用する物理現象は一様ではなく、異種金属の接合部に生じる起電力を使う熱電対、金属や半導体の電気抵抗が温度で変化する性質を使う測温抵抗体・サーミスタ、シリコン半導体のバンドギャップ特性を使う集積回路(IC)センサー、対象物が放射する赤外線そのものを検出する非接触型放射温度計という、少なくとも4系統の異なる原理が併存している。モーターの巻線・電池セル・CPU・排気ガス・食品・人体まで、温度は自律移動体からデータセンターまであらゆる機械システムで真っ先に監視すべき物理量であり、バッテリーの熱暴走検知やアクチュエータの巻線過熱保護など、他の多くのセンサー技術の裏側で静かに稼働し続けている基幹部品である。
K型熱電対(溶接接合、被覆線)
ワイヤー巻線型PT100素子(直径3mm)画像: Thermocouple K (3)(Harke, パブリックドメイン)/ Wire Wound Pt100 Resistor(Harke, CC BY-SA 3.0)、Wikimedia Commons。
原理: 4つの異なる物理現象が「温度を電気に変える」
熱電対 — ゼーベック効果と異種金属の起電力
熱電対(thermocouple)は、2種類の異なる金属線の一端を接合し、接合部(測温接点)と反対側の端(基準接点)の間に温度差があると、その温度差に比例した起電力(熱起電力)が生じる現象を利用する。この現象を「ゼーベック効果」と呼び、起電力 V は温度差 \Delta T = T_1 - T_0 とゼーベック係数(熱電能)S を使って近似的に次のように表せる。
最も広く使われるK型熱電対(クロメル-アルメル合金の組み合わせ)のゼーベック係数はおよそ 41\,\mu V/°C で、0〜1000℃の広い範囲でほぼ一定という扱いやすさを持つ。ただし熱電対は「2点間の温度差」しか測れないため、測温接点の絶対温度を知るには基準接点の温度を別途知る必要がある。かつては氷水(0℃)に基準接点を浸す「氷点補償」が標準的な手法だったが、現代の計測機器は基準接点付近に別のセンサー(サーミスタや半導体温度センサー)を置いて基準接点温度を測定し、演算で補正する「冷接点補償(Cold Junction Compensation, CJC)」を内蔵するのが一般的である。熱電対の規格はIEC 60584(国際規格)とASTM E230(北米規格)で定められており、K型熱電対の標準精度クラスはIEC 60584のクラス2でおおむね \pm 2.2°C または読み値の \pm 0.75\% のいずれか大きい方、より高精度なクラス1で \pm 1.5°C 程度である。
2種類の金属線A・Bを接合した測温接点T1と、電圧計側に残る基準接点T0の温度差に応じて熱起電力が生じる、という熱電対の基本回路(本図はDuskcoil作成の概念図)。
測温抵抗体(RTD) — 金属の抵抗が温度で変わる
測温抵抗体(Resistance Temperature Detector, RTD)は、金属の電気抵抗が温度上昇とともにほぼ線形に増加する性質を利用する。最も普及しているのは純度の高い白金(プラチナ)を使う「Pt100」で、0℃で100Ω、通常100℃で約138.5Ωを示す。抵抗と温度の関係は国際規格IEC 60751で定義される「Callendar-Van Dusen式」で表され、0℃以上では次の2次式になる。
ここで R_0 は0℃での抵抗(Pt100なら100Ω)、係数は A = 3.9083 \times 10^{-3}\,°C^{-1}、B = -5.775 \times 10^{-7}\,°C^{-2} と規格で厳密に決められている(0℃未満ではさらに3次の項 C が加わる)。RTDの精度はIEC 60751の許容差クラスで表され、クラスAは \pm(0.15 + 0.002|T|)°C、クラスBは \pm(0.3 + 0.005|T|)°C で、0℃付近ではクラスAで \pm 0.15°C という高精度が得られる一方、100℃ではクラスAでも \pm 0.35°C まで許容差が広がる――「温度が高くなるほど誤差の絶対値も大きくなる」という点は熱電対と対照的に、RTDの方が0℃近辺での精度は圧倒的に高い。抵抗測定であるがゆえに、配線抵抗の影響を避けるため4本の電線で電流印加と電圧測定を分離する「4線式」配線が高精度用途の前提になる。
サーミスタ — 半導体の指数関数的な抵抗変化
サーミスタ(thermistor)も抵抗-温度変換という点ではRTDと同じ原理に属するが、金属ではなく金属酸化物半導体を使うことで、RTDよりもはるかに大きな抵抗変化率を実現する。負の温度係数を持つNTC(Negative Temperature Coefficient)サーミスタが主流で、抵抗-温度特性は次のβ式で近似される。
T・T_0 は絶対温度(K)、\beta は材料ごとに決まる定数(代表的な製品でおよそ3000〜4000K)である。指数関数的な応答のため、RTDが100℃の変化で40%弱しか抵抗が変わらないのに対し、サーミスタは同じ温度変化で桁違いに大きな抵抗変化を示し、狭い温度範囲での高感度検出に向く。半面、感度が非線形なぶん広い温度範囲を1つの式でカバーするのは難しく、実務では複数の温度点でのルックアップテーブルや、より高次の近似式(Steinhart-Hart式)を使うのが一般的である。まれに正の温度係数を持つPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタもあり、こちらはある温度を超えると急激に抵抗が跳ね上がる特性を逆手に取って、電源回路の突入電流制限や自己復帰型ヒューズとして使われる――前掲のNTC写真がまさに電源基板上の突入電流制限用途の実例である。
半導体ICセンサー — バンドギャップとPN接合の温度依存性
シリコンのPN接合(ダイオードやトランジスタのベース-エミッタ間)の順方向電圧は、一定電流を流した状態で温度が上がるとほぼ線形に低下する(シリコンでおよそ-2mV/°C)。この温度依存性を単体で使うと絶対温度に対する再現性が低いが、温度依存性の異なる2つの電流成分を組み合わせて温度に依存しない基準電圧(バンドギャップリファレンス)を作り、その残差から温度だけを取り出す「PTAT(Proportional To Absolute Temperature)」回路が、現代の半導体温度センサーICの核心技術になっている。1980年代に登場したTexas Instruments(旧National Semiconductor)のLM35は、この原理をアナログ電圧出力(10mV/°C)として取り出す先駆的な製品で、外部補正なしで室温付近 \pm 1/4°C、-55〜150℃の全範囲でも\pm 3/4°Cという精度を、単純な出力形式のまま実現した。その後、この温度信号をチップ内蔵のADCでデジタル化し、I2Cや1-Wireのようなデジタルバスでそのまま読み出せる製品が主流になり、Maxim(現Analog Devices)のDS18B20のような1-Wire対応ICや、TMP117のような\pm 0.1°C級の高精度I2Cセンサーへと発展してきた。
非接触(赤外線放射温度計) — シュテファン-ボルツマン則と熱電対の意外な再登場
接触せずに温度を測る赤外線放射温度計は、物体が絶対温度に応じて赤外線を放射するという物理法則(シュテファン-ボルツマン則)を利用する。単位面積あたりの放射エネルギー P は、放射率 \varepsilon(物体表面が理想的な黒体にどれだけ近いか、0〜1の係数)とシュテファン-ボルツマン定数 \sigma を使って次のように表される。
温度の4乗に比例するため、わずかな温度変化でも放射エネルギーは大きく変化し、これをセンサーで捉えれば非接触で温度を求められる。ここで興味深いのは、実際にこの赤外線エネルギーを電気信号に変換する検出素子の多くが「サーモパイル」と呼ばれる、無数の微小な熱電対を直列に接続した構造だという点である。対象物からの赤外線が検出素子の受光面に吸収されると受光面がわずかに昇温し、その温度上昇を裏側の基準面との温度差として多数の熱電対列が積算的に検出する――19世紀に発見されたゼーベック効果そのものが、非接触・遠隔検出という最も現代的な温度センシングの土台でも現役で働いている。MelexisのMLX90614はこのサーモパイル方式を1チップに統合したデジタル出力ICの代表例である。一方、2次元の熱画像を撮るサーモグラフィカメラ(FLIR Leptonなど)は多くの場合サーモパイルではなく「マイクロボロメータ」という別方式を使う。これは吸収した赤外線による画素ごとの温度上昇を、今度はRTD・サーミスタと同じ「抵抗の温度依存性」で読み取る素子であり、非接触赤外線センシングの中に、本記事で扱う抵抗式・熱電対式という2つの原理がどちらも別の形で息づいているのは、温度センシング技術の系譜としても興味深い符合である。
主要製品のスペック比較
| 製品 | メーカー | 検出方式 | 温度範囲 | 精度 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| KTSSシリーズ(K型熱電対プローブ) | Omega Engineering(米) | 熱電対 | ステンレス外装で-200〜900℃(インコネル600外装で〜1150℃) | 標準クラスで±2.2℃または±0.75%のいずれか大きい方 | 汎用ミニチュアコネクタ対応、産業炉・排気系の高温測定で広く使われる代表的プローブ |
| M222(Pt100薄膜素子) | Heraeus Nexensos(独) | 測温抵抗体(RTD) | -70〜+500℃ | クラスA(±0.15℃@0℃)〜クラスC(±0.6℃@0℃)を選択可 | 寸法2.3×2.1×0.9mmの薄膜素子、DIN EN IEC 60751準拠、車載・産業計測・医療機器に幅広く採用 |
| NTCLE100E3 | Vishay(米) | NTCサーミスタ | -40〜+125℃ | 抵抗許容差±5%、β値許容差±0.75% | 25℃で10kΩ、β=3977K、ラジアルリード型で電源回路の突入電流制限からセンシングまで汎用的に使われる |
| DS18B20 | Analog Devices(旧Maxim) | 半導体IC(1-Wireデジタル出力) | -55〜+125℃ | -10〜85℃の範囲で±0.5℃ | 1本の信号線で複数個を数珠つなぎにできる1-Wireバス、分解能9〜12bit(0.5〜0.0625℃刻み)を選択可能 |
| TMP117 | Texas Instruments(米) | 半導体IC(I2Cデジタル出力) | -55〜+150℃ | -20〜50℃で±0.1℃、-55〜125℃でも±0.25℃ | 16bit分解能0.0078℃、消費電流3.5µAと低消費電力、PT100に匹敵する精度をワンチップで実現 |
| MLX90614 | Melexis(ベルギー) | 非接触赤外線(サーモパイル) | 対象物-70〜+382.2℃、周囲-40〜+125℃ | 標準±0.5℃(限定範囲で医療グレード±0.1℃も選択可) | SMBusデジタル出力、分解能0.02℃、17bit ADCと信号処理ASICを1つのTO-39缶に統合 |
OmegaのKTSSシリーズは、産業炉や排気ガスのような高温・過酷環境向けの熱電対プローブとして定番の製品で、ハンドヘルド計測器にそのまま挿せるミニチュアコネクタ規格に対応している。HeraeusのM222は自動車のエンジン制御やアンチロックブレーキ、家電の温度管理まで、量産機器に組み込まれる薄膜Pt100素子の代表格で、クラスA〜Cという規格上の許容差をそのまま製品ラインナップの選択肢として提示している点が特徴である。VishayのNTCLE100E3のようなNTCサーミスタは数十円〜百円程度の価格帯で、電源回路の突入電流制限からリチウムイオン電池パックのセル温度監視まで、コストと引き換えに桁違いの生産数量で使われている。
DS18B20は、1本の信号線だけで複数個のセンサーを直列に接続できる1-Wireバスという通信方式そのものが最大の特徴で、Arduino・Raspberry Piを使う個人の電子工作コミュニティで長年デファクトスタンダードの地位を占めてきた。同じ半導体ICでもTMP117はDS18B20よりも一段上の精度帯を狙った製品で、Texas Instruments自身が「非医療用途ではPT100の代替になりうる」と位置づけているように、RTD並みの精度をワンチップに集約している。MLX90614は、対象物に触れずに測定したい用途――回転体の表面温度や、汚染を避けたい食品・医療分野――で選ばれる非接触センサーの代表例である。
歴史: 電流と間違えられた発見から、ノートパソコンの発熱対策まで
ゼーベックは自分の発見を「磁気」だと誤解していた
熱電対の原理となるゼーベック効果は、1821年、ドイツの物理学者トーマス・ヨハン・ゼーベックによって発見された。ゼーベックは2種類の異なる金属(銅とビスマス)を輪状につなぎ、接合部に温度差を与える実験を行っていたところ、近くに置いたコンパスの磁針が振れることに気づいた。ここでゼーベックは「温度差が金属を磁化させ、その磁気がコンパスを振らせた」と結論づけ、この現象を地球磁気や火山活動と結びつけて説明しようとした。実際には、温度差によって回路に電流が流れ、その電流が作る磁界がコンパスを振らせていた――つまりゼーベックは電気を発見していたにもかかわらず、それを磁気現象だと誤解したまま論文を発表した。後にハンス・クリスティアン・エルステッドがこの現象を正しく電気現象として再解釈し、今日ではペルティエ効果と合わせて「ペルティエ-ゼーベック効果」と呼ばれている。自分が発見した現象の正体を、発見者自身が取り違えていたという珍しいエピソードは、科学史でもたびたび引用される逸話である。
白金抵抗温度計を「使い物にならない」から救ったCallendar
測温抵抗体の原点は1871年、ドイツ生まれの技術者ウィリアム・シーメンスがベーカリアン講演で発表した、電気抵抗の温度依存性を利用する測温方式である。しかし当時の英国科学振興協会はケルビン卿とジェームズ・クラーク・マクスウェルを含む委員会でこの装置を検証し、絶縁材料が白金に応力を与えて抵抗値が不安定になるという欠陥を指摘、否定的な報告を出した。この状況を打開したのが英国の物理学者ヒュー・ロングボーン・キャレンダーで、1885年前後に絶縁材料を改良し、測定範囲の上限を超える温度でアニール(焼きなまし)処理を施すことで安定性を確保した。キャレンダーが定式化した抵抗-温度の近似式は、600℃の範囲で1%以内の精度を実現し、これが現代のCallendar-Van Dusen式の原型になった。実用化までに約30年、シーメンスの提案からキャレンダーの改良を経て測温抵抗体が計測器として確立するまでの道のりは、優れた原理の発見と、それを実際に使い物にする工学的な粘り強さが別物であることを物語っている。
ファラデーが150年前に気づいていたサーミスタの原理
サーミスタの原理となる「半導体の抵抗が温度上昇で下がる」現象を最初に記録したのは、電磁誘導の発見者として知られるマイケル・ファラデーである。1833年、ファラデーは硫化銀という物質の電気抵抗が温度上昇とともに劇的に減少することを観測し、これは半導体の性質を示した史上初めての科学的記録とされている。しかしこの現象が実際の製品として世に出るまでには約100年を要し、1930年、米国の発明家サミュエル・ルーベンが実用的な製法を確立してようやく商業生産が始まった。ルーベンはのちに水銀電池・アルカリ電池の実用化にも関わった人物で、電池研究者としても知られる。基礎現象の発見から実用化まで1世紀近くかかったという点は、同じく19世紀に発見されたゼーベック効果が比較的早く熱電対として実用化されたのとは対照的な歴史をたどっている。
「バンドギャップの皇帝」と呼ばれた男
半導体温度センサーICの心臓部にあるバンドギャップリファレンス回路の設計を極めた技術者として、業界で語り継がれているのが米ナショナルセミコンダクター(現Texas Instruments傘下)のロバート(ボブ)・ピースである。1976年に同社に入社したピースは、33年間の在籍中に21件の特許と20点を超える集積回路の設計を手がけ、その卓越したアナログ回路設計の腕前から同僚たちに「バンドギャップの皇帝(Czar of Bandgaps)」と呼ばれた。LM35を含む温度センサーICの開発・評価に深く関わったことでも知られ、実験用に自作した超高精度・超安定の恒温槽をLM35の較正に使っていたという逸話も残っている。半導体プロセスのばらつきや製造誤差を吸収しながら、シリコンチップの中だけでミリケルビン級の温度分解能を叩き出す技術は、ピースのような一握りのアナログ設計者が積み上げてきた職人技の延長線上にある。
実例: F1マシンが12個の非接触センサーでタイヤを「触れずに」測る
Fluke 561赤外線放射温度計(K型熱電対プローブ併用モデル)画像: Industrial infrared thermometer with additional temperature probe(KalWadin, CC BY-SA 4.0)、Wikimedia Commons。非接触の赤外線検出と、接触式の熱電対プローブの両方を1台に統合したハンドヘルド機の例。
温度センサーが複数個・非接触という条件下で本領を発揮する実例が、フォーミュラ1(F1)マシンのタイヤ温度モニタリングである。F1のタイヤはゴムの温度によってグリップ特性が大きく変化するため、走行中のタイヤ表面温度をリアルタイムかつ非接触で計測することが、セットアップ調整とレース戦略の両方に直結する。ここで使われるのが、フランスのTexense社が開発する赤外線アレイセンサー「IRN8C-F1」で、2020年代のF1グリッドの9割以上のチームが採用しているとされる。この製品は1つの筐体に8チャンネルの赤外線検出素子を並べ、タイヤ幅方向に8点の温度分布を一度に読み取れる設計になっており、最大950mmの距離からでも計測できるよう最適化されている。実際の車両では前後左右4本のタイヤそれぞれにセンサーを配置する構成が一般的で、タイヤ1本あたり複数個(内側・外側・中央の3点測定であれば1本あたり3個)を使う場合、車両全体で最大12個規模のIRセンサーがタイヤ表面をリアルタイムに監視することになる。回転して高速で動き続けるタイヤ表面に、接触式の熱電対やRTDを直接貼り付けることは物理的に不可能に近く、シュテファン-ボルツマン則に基づく非接触検出という原理そのものが、この用途を成立させる前提条件になっている。
力覚センサーの精度を静かに蝕む「見えない温度ドリフト」
温度センサーは単体で使われるだけでなく、他のセンサーの精度を陰で支える・あるいは陰で狂わせる存在でもある。2025年2月に発表された論文「Temperature Compensation Method of Six-Axis Force/Torque Sensor Using Gated Recurrent Unit」(Hyun-Bin Kim, Seokju Lee, Byeong-Il Ham, Kyung-Soo Kim)は、6軸力覚(F/T)センサーの精度が温度変化によってどれだけ蝕まれるかを扱った研究である。フォトカプラ方式のF/Tセンサーは45gという軽量設計ゆえに熱容量が小さく、わずかな発熱でも内部の温度が急激に変動して暗電流の変化を引き起こし、リアルタイムの力・トルク推定精度を劣化させてしまう。この論文は従来の多層パーセプトロン(MLP)や最小二乗法による温度補正に代えて、時系列データを扱うGRU(Gated Recurrent Unit)を使った補正手法を提案し、従来手法を上回る精度改善を報告している。力覚センサーのカタログスペックだけを見ていると見落としがちだが、センサー自体の発熱・周囲温度の変動によるドリフトは、ロボットアームの精密な力制御を実運用で狂わせる隠れた要因であり、その補正のためだけに温度センシングと機械学習を組み合わせた研究が今も続けられている。
性能を左右するパラメータ
- 測定原理と温度範囲の対応: 熱電対はK型で-200〜1350℃という極めて広い範囲をカバーできる一方、RTD(Pt100)は-200〜850℃、サーミスタは-55〜150℃程度、半導体ICはDS18B20で-55〜125℃、TMP117で-55〜150℃と、高温になるほど選択肢が熱電対に絞られていく。排気ガスや工業炉のような高温環境で半導体ICやサーミスタを使うことはできない
- 精度と温度依存性: RTD(クラスAで0℃付近±0.15℃)やTMP117(-20〜50℃で±0.1℃)は狭い温度帯で高精度を発揮するが、温度が上がるほど許容差そのものが広がる。一方、熱電対の標準精度(±2.2℃または±0.75%)は温度範囲全体でおおむね一定の割合誤差として現れ、絶対精度よりも広範囲・高温での頑健性を優先する用途に向く
- 応答速度と熱容量: サーミスタ・熱電対は素子自体が小さく熱容量が低いため応答が速い一方、封入型のRTD素子は熱容量が大きく応答が遅れやすい。MLX90614のような非接触方式は対象物に触れず熱平衡を待つ必要がないため、回転体表面のような接触測定が困難な対象でも瞬時に温度を追える
- 自己発熱(セルフヒーティング): サーミスタ・RTDは測定のために電流を流す必要があり、この電流自体がジュール熱で素子をわずかに加熱してしまう。LM35が消費電流わずか60µAで自己発熱を0.1℃未満に抑えている点や、TMP117が3.5µAという低消費電力を謳う点は、精度を追求するほど自己発熱の抑制が設計の焦点になることを示している
- 配線・実装コスト: RTDで高精度を狙うほど4線式配線が必須になり配線コストが増える一方、DS18B20の1-Wireバスは1本の信号線に複数個を数珠つなぎできるため、多点測定時の配線本数を劇的に減らせる。EVバッテリーパックのように数十〜数百点の温度監視が必要な用途では、この配線本数の差が実装コストに直結する
- 非接触という選択肢の価値: F1のIRN8C-F1が示すように、対象物が高速回転する・汚染を避けたい・接触自体が測定対象を乱すといった制約がある場合、シュテファン-ボルツマン則に基づく非接触測定は精度以前に「そもそも測定が可能かどうか」を左右する。ただし放射率\varepsilonの設定を誤ると測定値が大きくずれるため、対象物の表面特性(艶・材質)への理解が接触式以上に問われる
参考リンク
- LM35 Precision Centigrade Temperature Sensorsデータシート(Texas Instruments公式PDF)
- TMP117 High-Accuracy, Low-Power, Digital Temperature Sensor製品ページ(Texas Instruments公式)
- DS18B20 Programmable Resolution 1-Wire Digital Thermometerデータシート(Analog Devices公式PDF)
- MLX90614データシート(Melexis公式PDF)
- Heraeus Nexensos M222データシート(Mouser配布PDF)
- Vishay NTCLE100E3データシート(Vishay公式PDF)
- Omega Engineering KTSSシリーズ熱電対プローブ製品ページ
- K-Type Thermocouples解説(DwyerOmega公式ブログ)
- Thermocouple Accuracy, Tolerances and Error Sources(TE Instrumentation)
- RTD Accuracy Classes - Class AA, A, B, Pt100 and Pt1000(Thermometrics)
- Callendar–Van Dusen equation(Wikipedia英語版)
- The Origin of the Platinum Resistance Thermometer(Johnson Matthey Technology Review)
- Hugh Longbourne Callendar(Wikipedia英語版)
- Thermistor(Wikipedia英語版、Faraday 1833・Ruben 1930の経緯)
- Thomas Johann Seebeck(Wikipedia英語版、発見と誤解の経緯)
- Bob Pease(Wikipedia英語版、"Czar of Bandgaps"の経歴)
- Bob Pease—the "Czar of Bandgaps" and His Analog Design Legacy(All About Circuits)
- FLIR Leptonシリーズデータシート(Teledyne FLIR公式PDF)
- Texense IRN8C-F1赤外線タイヤ温度センサー製品ページ(Famaエンジニアリング)
- Formula 1's testing sensors explained(RACER)
- Temperature Compensation Method of Six-Axis Force/Torque Sensor Using Gated Recurrent Unit(arXiv:2502.17528)
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