単眼カメラは、レンズ1枚・撮像素子1枚で前方を撮影し、画像処理によって車線・標識・信号・歩行者・車両などを認識するセンサーである。LiDARやレーダーのように能動的に電波・光を発射するのではなく、可視光の反射をそのまま受け取るだけなので、構造が単純でコスト・設置スペースの両面で有利になりやすい。自動運転車のADAS(先進運転支援システム)において、車線逸脱警報や車線維持支援(LKA)、視覚のみでのアダプティブクルーズコントロール(ACC)など、最も広く普及しているセンサーの一つである。

フロントガラスに取り付けられたMobileyeシステムのカメラMobileyeのウィンドウカメラ(2017年撮影)

画像: Car window camera of Mobileye system(Ranbar, CC BY-SA 4.0)、Wikimedia Commons。本文で扱う最新のEyeQ6L搭載カメラそのものではなく、初期モデルの一例。

原理: 1枚の画像には「絶対スケール」が存在しない

単眼カメラの最大の弱点は、1枚の画像だけでは対象物までの絶対距離(実寸のスケール)が原理的に定まらないことにある。カメラはピンホールカメラモデルで近似でき、3次元空間の点 (X, Y, Z) は焦点距離 f を用いて画像平面上の点 (x, y)

x = f \frac{X}{Z}, \qquad y = f \frac{Y}{Z}

として投影される。この式が示す通り、画像上の座標 (x, y) から求まるのは実際の座標 (X, Y, Z) を奥行き Z で正規化した比率だけであり、Z(距離)そのものは1枚の画像単独では逆算できない。同じ大きさに写る物体は、実際に小さくて近くにあるのか、大きくて遠くにあるのか、この式だけでは区別できない――これはステレオカメラが2つのレンズの視差から三角測量で Z を直接計算できるのと対照的である。

画像: Pinhole camera model geometry(KYN, CC0 1.0 パブリックドメイン)、Wikimedia Commons。

この制約を補うため、単眼カメラベースのシステムは何らかの「既知の基準」を利用して距離を推定する。代表的な手法が、Mobileyeが採用する逆遠近投影変換(Inverse Perspective Mapping, IPM)を用いたsingle-view geometryで、路面が平面であるという仮定と、車線幅など既知のサイズを持つ物体を基準に、画像上の位置から実際の距離を逆算する(関連特許: US8164628B2)。このほか、物体の見かけの大きさ(車両・歩行者の平均的な実寸)から距離を推定する手法や、時間方向に連続するフレームの動き(オプティカルフロー)から距離・速度を推定する手法も併用される。いずれも「仮定」に依存するため、路面が傾斜している場合や、想定外のサイズの物体に対しては誤差が大きくなりやすい。

近年はこの制約を深層学習で直接埋める「単眼距離推定(Monocular Depth Estimation, MDE)」の研究が急速に進んでいる。従来手法の多くは相対的な奥行き(遠近の順序)しか出力できなかったが、実寸のメートル単位で絶対距離を出力する「メトリック単眼深度推定」に焦点を当てたサーベイ論文(arXiv:2501.11841, 2025年)が2025年に公開されるなど、単眼カメラの原理的弱点そのものをニューラルネットで克服しようという方向性が研究の主戦場になっている。

主要製品のスペック比較

製品 画素数 視野角(FOV) 備考
Mobileye EyeQ6L(EyeQ6 Lite) 800万画素 120度 EyeQ4M搭載カメラから視野角を20度拡大。処理性能はEyeQ4M比で約4.5倍、実装面積は約半分
Tesla HW4カメラ 500万画素 HW3(1.2MP)比で大幅に拡大(具体的な度数は非公開) HW3の1.2MPから5MPへ大幅刷新。リアカメラは魚眼効果が強く出るほど広角化
Continental MFC500(MFC525/MFC526) 最大800万画素 最大125度 モジュール式・スケーラブルなカメラプラットフォームで、認識処理をカメラ内蔵/外部ADCU(統合制御ユニット)のどちらにも配置できる
comma.ai openpilot(comma 4) (アフターマーケット後付けデバイス、単眼カメラ+専用SoC) 999ドルの後付けキットで市販車にレベル2運転支援を追加。エンドツーエンドの単一ニューラルネット「Supercombo」が単眼画像から自車の将来軌道を直接予測
Sony IMX490イメージセンサー 約880万画素 (センサー単体、レンズ非依存) 150dBという広いダイナミックレンジとLEDフリッカー抑制機能を持つ車載向けCMOSセンサーで、Mobileye・Continentalなど複数社のカメラモジュールに採用される汎用部品

Mobileye EyeQ6Lは2024年に発表されたADAS向けSoC(System on Chip)で、単眼カメラそのものというより「カメラ+処理チップ」のセットとして提供される。8MPという高解像度と120度の広視野角により、現在走行中の車線だけでなく、左右2車線先までの車線中央を検出できるレーンキープ・自動車線変更機能を実現している。Tesla HW4は2023年以降に展開されているハードウェア世代で、従来のHW3(1.2MP)から解像度を5MPへ大幅に引き上げ、標識・ナンバープレートの認識精度を高めている。Continental MFC500は認識処理エンジンをカメラ本体・外部ユニットのどちらにも配置できる柔軟性が特徴で、トラック向けの上位モデルMFC526まで含むファミリー展開をしている。comma.aiのopenpilotは唯一、自動車メーカー純正ではなく個人が後付けできる製品という点で毛色が異なり、単眼カメラの画像から直接、車両の将来軌道を予測するエンドツーエンドニューラルネット「Supercombo」を採用している。

ヘブライ大学の研究室から始まったMobileye、レーダーを「削除」したTesla

ヘブライ大学発、インテルが1.5兆円超で買収 — Mobileyeは1999年、エルサレム・ヘブライ大学のコンピュータビジョン研究者Amnon Shashuaが、実行委員Ziv Aviramと共同で設立した。Shashuaはそれ以前にも、自動車・航空宇宙向け光学計測システムを手がけるCogniTens、映像解析技術を手がけるCogniTechの設立に関わっており、Mobileyeはその延長線上で「量産車向けに手が届く価格のビジョンシステムを実用化する」ことを目指して立ち上げられた。最初のEyeQチップ(EyeQ1)は構想から10年を経た2004年に発売され、2014年には時価総額約53億ドルでナスダック上場、2017年にはインテルが153億ドルで買収し、当時イスラエル史上最大のテクノロジー企業買収案件になった。2022年末にはインテル傘下のまま再びナスダックに再上場し、独立企業としてADASから自動運転・「フィジカルAI」分野へ事業を広げている。

Tesla Visionが「レーダーを削除」した2021年 — 2021年5月、北米向けModel 3・Model Yはレーダーセンサーを搭載しない仕様に切り替わり、カメラとニューラルネット処理だけに頼る「Tesla Vision」への移行が始まった。同年6月のCVPR(コンピュータビジョン分野の主要国際会議)自動運転ワークショップで基調講演を行ったAndrej Karpathy(当時Tesla AI部門責任者)は「我々はレーダーを削除し、これらの車両はビジョンのみで走行している」と明言し、深層学習ベースの視覚認識システムが当時のレーダーの100倍優れた段階に達したと説明した。同氏は「車の周囲を囲む8台のカメラからの映像だけをもとに、すべてが初めて車内で起きる」とも述べ、視覚のみに頼るアプローチの技術的難しさを認めつつ、一度実現できれば地球上のどこでも展開できる汎用ビジョンシステムになるとの見立てを示している。欧州・中東向けModel 3・Model Yも後にレーダーなしのTesla Visionへ移行しており、単眼(および複数カメラの組み合わせ)ベースのアプローチを自動車メーカーが正面から選び取った象徴的な事例になっている。

アフターマーケットの単眼運転支援、comma.ai — 自動車メーカー純正のADASとは別に、iPhoneのジェイルブレイクで知られたGeorge Hotzが創業したcomma.aiは、999ドルの後付けデバイス「comma 3X/4」1台をフロントガラスに取り付けるだけで、対応車種にレベル2の車線維持・追従走行機能を追加するopenpilotを展開している。モジュール化された従来型の認識パイプラインではなく、単眼カメラの映像から自車の将来軌道と道路構造を直接予測するエンドツーエンドのニューラルネット「Supercombo」を採用しており、オープンソースで公開されていることもあって、DIYコミュニティや研究者の間で広く使われている。

性能を左右するパラメータ

参考リンク

#カメラ #Mobileye #Tesla #センサー #自動運転