0. この記事で分かること
- 行動計画が認識・経路計画・制御の間で担う仕事。
- 有限状態機械(FSM)、ルール、コスト関数ベースの候補比較の違い。
- 予測不確実性、HD地図、MPCとの接続と、安全なフォールバック。
1. まず結論:行動計画とは何か
行動計画(Behavior Planning)は、周囲の物体・交通規則・目的地・自車状態から、数秒先の離散的な運転意図(追従、停止、譲る、車線変更、合流など)を選ぶ意思決定層である。認識が「何がどこにあるか」、軌道生成が「どの曲線を通るか」、制御が「操舵・加速をどう出すか」を担当し、その間をつなぐ。
2. なぜ独立した層が必要か
同じ車線中心線でも、前車が急減速した場合は追従、隣車線が空いていれば車線変更、横断歩道なら停止という行動が変わる。認識器の物体リストをそのままMPCへ渡すと、候補の意味や優先順位を毎周期再発明することになる。逆にルールだけでは、複数車線・不確実な他車予測・工事規制を組み合わせにくい。
行動計画は、短い時間窓で「安全制約を満たす候補」を作り、予測誤差を含むコストで比較し、選んだ意図を軌道生成へ渡す。数秒後の車両位置を断定するのではなく、行動の切替条件と、切り替えない保守的な条件を明示する。
3. 入力と状態
入力は、物体追跡の位置・速度・分類・信頼度、占有格子やHD地図の車線トポロジー、信号・標識、自己位置・速度、目的地経路である。追跡対象jの状態を\hat{s}_j=(p_x,p_y,v_x,v_y,\Sigma_j)とすれば、予測器は平均だけでなく共分散\Sigma_jを返す。行動計画は共分散が大きいと、同じ平均軌跡でも安全マージンを広げる。
4. 出力:意図と制約
出力は、例えばFOLLOW_LANE、STOP、YIELD、CHANGE_LEFT、MERGEのような意図、目標車線、速度上限、必要な停止位置、軌道生成器が守る制約である。候補軌道\tauを、衝突、交通規則、快適性、進捗のコストで評価すると
となる。衝突コストは「起きたら大きい」ハード制約へ分離し、進捗は安全を破ってまで稼げないよう重みの順序を設計する。
5. 基本構成
図1 — 認識・地図から他者の将来を予測し、複数の意図を比較する。安全フィルタは候補選択の後にも独立して置く。
6. FSM:状態と遷移を明示する
有限状態機械は、状態と遷移条件を監査しやすい。例えばFOLLOWからSTOPへは停止線、赤信号、衝突余裕時間(TTC)が閾値未満、という条件で遷移する。FOLLOWからCHANGE_LEFTへは、目的車線が経路上にあり、隣車線の予測占有が安全で、変更を完了できる距離があることを要求する。
ただし状態を増やすと組合せが爆発し、未知の状況を「どの状態にも該当しない」穴へ落とす。状態遷移表、優先順位、タイムアウト、再入条件をテストケースとして管理する。
7. 候補とコストの比較
| 方式 | 仕組み | 強み | 弱み |
|---|---|---|---|
| ルール/FSM | 条件で状態を遷移 | 説明・検証しやすい | 状態数と例外が増える |
| コスト関数 | 候補を同じ尺度で評価 | 複数目的を比較できる | 重みの妥当性を保証しにくい |
| サンプリング | 予測・軌道を多数生成 | 非線形・多峰性に対応 | 計算時間と再現性 |
| 学習方策 | データから意図を推定 | 複雑な文脈を圧縮 | 説明、安全保証、分布外 |
実務では、FSMで危険な候補を除き、コスト関数で残りを比較し、軌道生成・MPCが連続量を最適化するハイブリッド構成が扱いやすい。学習器を使う場合も、速度・加速度・車線境界・停止距離を独立監視する。
8. 難しい環境
交差点では、他車が譲るか進むかという意図が観測だけで決まらない。歩行者の視線や自転車のふらつき、工事員の合図は予測分布が広い。地図とセンサが矛盾したときは、古い地図を理由に物体を無視せず、速度を下げ、停止可能な候補を優先する。悪天候や遮蔽では、TTCの平均だけでなく分散・最悪分位点を使う。
9. 実用上の選び方とフォールバック
- 高速道路の車線変更:FSMで規則・目標車線を絞り、他車軌跡の予測分布と最小TTCをコストへ入れる。
- 市街地交差点:信号・停止線・横断歩道をハード制約にし、譲り合いの不確実性が高ければ停止する。
- 配送ロボット:歩行者との相互作用を保守的にし、速度上限と停止距離を行動計画から制御へ渡す。
- センサ欠測・地図不一致:意図を
DEGRADED_STOPへ遷移し、最後の軌道を保持せず安全停止する。
選択ログには、候補ごとのコスト内訳、棄却理由、予測共分散、遷移元・先、選択時刻を残す。事故後に「なぜ車線変更を選んだか」を再現できない行動計画は改善できない。
10. まとめ(3行で復習)
行動計画は、認識の物体リストを運転意図と制約へ変換する意思決定層である。
FSMで規則を明示し、予測分布を含む候補をコスト比較し、軌道生成・MPCへ渡す。
不確実性、地図の古さ、欠測を前提に、安全フィルタと停止フォールバックを独立して持つ。
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