コンバイン(combine harvester)は、作物を刈る、穂から粒を脱穀する、粒とわらくずを選別するという工程を一台に組み合わせた収穫機である。稲作でよく見る日本の「自脱型」は、稲の穂だけを脱穀部へ送り、長いわらを機外へ残す。この一見素朴な分業は、水田のぬかるみ、小区画、稲わら利用、乾燥・調製という後工程を含む日本の稲作体系に合わせて洗練された設計である。

本稿では、運転席からは見えにくい機内の物質流れを中心に扱う。コンバインの能力は馬力や条数だけでは決まらない。作物量、水分、倒伏、地面の起伏、機内に滞留する時間、送風量、そして「どれだけ粒を地面へ落としてしまったか」を同時に扱う、移動する選別工場だからである。仕様・価格・機能の記述は特記のない限り2026年9月3日確認の公開情報に基づく。

30秒要約

まず区別したい:普通型と自脱型

普通型(全面刈り・全稈投入型)は、ヘッダで作物全体を切り、茎・穂・葉をまとめて脱穀・分離部へ投入する。北米の小麦、トウモロコシ、大豆などの大区画・乾燥した畑で発達した形式で、幅の広いヘッダと大きな処理能力を持つ。一方、自脱型(head-feeding combine)は、稲株の根元側をフィードチェーンで保持し、穂部だけを脱穀室へ通す。長い稈は機外の排わら部へ出るため、脱穀・選別室へ入るわら量を劇的に減らせる。

この差は単なる投入方法ではない。普通型は大量のわらを扱うため、大きな分離面積と高い駆動力を必要とする代わりに、穀物の種類を替えやすい。自脱型は稲の姿勢を保って送るため、倒伏条件では引起し・搬送の設計が難しいが、脱穀室の負荷を穂中心に限定できる。水田の比較的小さい圃場で旋回し、濡れた土にクローラで接地圧を分散し、わらを必要な形で残すという用途に合う。

なぜ自脱型は日本で発祥したのか

「日本発祥」とは、刈取り・穂部だけの脱穀・選別を一体化した実用的な自脱型の系譜が、日本の稲作条件から生まれ、国内で急速に改良・普及したことを指す。農研機構の前身研究機関の報告によれば、1960年に自動脱穀機を主体とする立毛脱穀自脱コンバインなどが初めて試作され、1962年には複数メーカーと刈取機・自動脱穀機の組合せを研究、1966年に初めて100台が市販された。1971年には約10万台が普及したという。自脱コンバイン高性能化の研究報告

背景は四つある。第一に、水田は畑より軟弱で、当時は圃場区画も小さかった。巨大な普通型を入れるより、軽量なクローラ機で狭い枕地を回る方が現実的だった。第二に、稲わらは家畜敷料、堆肥、結束・乾燥などの利用価値を持ち、穂だけを扱う方が後工程との整合がよい。第三に、日本の水稲は高水分・倒伏・品種差という変動を抱えやすく、穂を確実に保持して送る機構が品質と損失の両面で有利だった。第四に、田植え・刈取り・乾燥調製を一連で省力化する強い需要があり、農機メーカーと公的研究機関が実験・量産・改良を繰り返せた。

したがって自脱型を「小型コンバイン」とだけ呼ぶのは不十分である。機内にわらを入れないことで、必要な選別面積、送風、再処理、消費動力の配分を変えた、栽培体系に適応したアーキテクチャである。現在も右前方の操作席、油圧モータによる無段変速などは自脱型の基本レイアウトとして継承されている。井関農機・農機の変遷

機内で何が起きるか:四つの工程

自脱型コンバインの物質フロー稲が刈取部、脱穀部、選別部、グレンタンクを通り、籾と排わらに分かれる流れ 1 刈取り分草・引起し・刈刃穂を搬送2 脱穀フィードチェーンこぎ胴・受網籾+短いわらくず3 選別揺動棚・唐箕風チャフ・2番処理清浄な籾4 貯留・排出グレンタンクアンローダ長い排わら(機外へ)わらくず・籾殻(機外へ)

図: Duskcoil作成。矢印は物質の主経路であり、2番処理では未選別物の一部が選別部へ戻る。

1. 刈取り:地面と稲の境界を読む

前端の分草具は隣接する株を分け、デバイダが作業幅の端を定める。引起し装置は倒れた稲を掻き上げ、掻込み装置が株元を搬送する。往復動する刈刃と固定刃のせん断で稈を切り、搬送チェーン・スターホイールが穂先を脱穀部へ向ける。ここでは「切る」より、切った後に稲を落とさず所定の姿勢で送ることが難しい。倒伏した稲、絡まった雑草、ぬかるみによる機体姿勢の変化は、引起し失敗と穂先損失を招く。

刈高さ制御は、刈取部を必要以上に下げて泥や短い稈を吸い込まず、かつ穂を取り残さない位置へ保つ機能である。土面追従は接地センサや刈取部の荷重・角度、車体水平制御と組み合わせる。自脱型では株元をフィードチェーンに受け渡せる高さも制約になるため、単なる「地面から一定高さ」ではなく、作物姿勢、条間、倒伏方向、車体ロールを含む制御になる。高く切り過ぎれば未刈・穂先損失、低過ぎれば土・稈量の増加、刈刃摩耗、詰まりが増える。

2. 脱穀:穂から籾を外し、壊さない

フィードチェーンは稈を挟んで送り、穂部を回転するこぎ胴(threshing cylinder)と受網の間へ通す。こぎ歯の打撃・こすり・遠心作用で枝梗から籾を外す。外れた籾と小さなわらくずは受網を通って下方へ落ち、大きな稈は排わら経路へ進む。こぎ胴回転数、チェーン速度、こぎ歯形状、受網の開口は、脱粒率と損傷粒率のトレードオフを決める。

乾いた作物なら強い脱穀が効くとは限らない。回転数を上げ過ぎれば籾の胴割れや砕粒、わらの微細化が増え、選別が重くなる。湿った稲では穂がほぐれにくく、同じ車速でも脱穀負荷が上がる。現行機がエンジン負荷、こぎ胴損失、揺動損失などを見て車速や選別条件を補正するのは、この変動を運転者の勘だけに委ねないためである。

3. 選別:重さではなく、粒の運動差を使う

脱穀直後の混合物には、籾、枝梗、短わら、未脱粒穂、細かな塵が混在する。揺動棚は前後運動で混合物をほぐし、層を作る。唐箕ファンの気流で軽いわらくずを後方へ飛ばし、比重と空気抵抗で相対的に重い籾をふるいの下へ落とす。実際には「重いものだけが落ちる」わけではなく、粒径、形、初速、層の厚さ、風速、ふるい開度が絡む確率的な分離である。

籾に混じる未脱粒穂や大きな枝梗は2番ラセンで回収し、2番処理胴でほぐして揺動棚前方へ戻す。この循環は選別精度を上げるが、戻し過ぎは滞留量を増やし、揺動棚を過負荷にする。井関のHJ6130/7130は大径ロングこぎ胴(公表値で径446 mm、幅1,250 mm)と2番処理を組み合わせるとしている。井関・操作性と高精度

4. 貯留・排出:籾を「運ぶ」ことも収穫作業である

選別済みの籾は横ラセン・揚穀ラセンでグレンタンクへ上げられる。タンクが満杯なら、アンローダ(排出オーガ)を旋回・伸縮してトラックやフレコンへ排出する。排出中も刈取りを続けられれば稼働率は上がるが、排出先との位置関係、接触、ぬかるみ、オーガ先端の視認が新たな安全課題になる。自動運転で「排出も自動化」と言うとき、この車両協調まで含むかを確認すべきである。

断面で読む:動力・物質・情報は別の経路を持つ

自脱型コンバインの概念断面前方の刈取部から脱穀部、選別部、グレンタンク、排出オーガへ至る概念断面 刈取・搬送引起し/刈刃/供給こぎ胴受網 → 籾・夾雑物上側:排わら揺動棚・ふるい唐箕風 → 排塵グレンタンク排出オーガ排わら経路ディーゼル+油圧駆動

図: Duskcoil作成。実機の配置は機種で異なる。断面図は、穂だけが脱穀部へ入る自脱型の要点を示した概念図である。

エンジン出力はベルト、ギヤ、チェーン、油圧ポンプを通じて、走行クローラ、刈取、こぎ胴、送風、ラセンへ分配される。作物の流れと動力の流れは一致しない。例えば走行を少し遅くするだけで単位時間の投入量は減るが、こぎ胴・ファンの回転を維持すれば選別余裕は増える。逆にエンジン回転を落とし過ぎると、燃料は節約しても送風量や脱穀周速度が不足し、損失が増えることがある。制御の目的は「常に最大回転」でも「常に最低燃費」でもなく、品質・損失・処理量の制約下での総作業コスト最小化である。

損失率を式で扱う

圃場に存在した本来回収可能な穀粒質量を M_0、グレンタンクへ回収した質量を M_{mathrm{tank}} とする。作業中に回収できなかった質量を実測・推定できるなら、総損失率 L_{mathrm{total}}

L_{\mathrm{total}}=\frac{M_0-M_{\mathrm{tank}}}{M_0}\times100\,[\%]

である。現場では全量の M_0 を直接量るのは大変なので、損失を原因別にサンプリングする。

L_{\mathrm{total}} \simeq L_{\mathrm{pre}}+L_{\mathrm{header}}+L_{\mathrm{thresh}}+L_{\mathrm{sep}}

ここで L_{\mathrm{pre}} は作業前からの落粒・倒伏等、L_{\mathrm{header}} は刈取・搬送時、L_{\mathrm{thresh}} は未脱粒・排わら側、L_{\mathrm{sep}} は揺動棚・排塵側の損失率である。厳密には各経路の二重計上を避ける必要があるが、調整の優先順位を決めるにはこの分解が有効だ。排わらを少量採取して未脱粒を数え、排塵側の粒を枠取り採取し、面積当たり質量を収量で正規化する。

機械の投入量(フィードレート)は、単位面積当たり乾物・籾量 Y、有効刈幅 w、走行速度 v の積で概算できる。

\dot M \approx Y\,w\,v

ただし高水分・長稈・倒伏では同じ籾収量 Y でも、扱うわら量と絡みが増すため、許容 \dot M は下がる。運転者が「今日は遅く刈る」と判断するのは、速度そのものの問題ではなく、揺動棚の層厚、こぎ胴負荷、損失センサ値が許容域を越えないようにするフィードレート制御である。

収量、食味、水分をどう測るか

収穫時に位置付きデータを取る価値は、平均収量を知ることだけではない。同じ圃場にも土壌、施肥、水管理、倒伏、病害の差があり、次作の施肥・品種・排水改善を「圃場平均」から一段細かく考えられる。だがセンサは魔法の箱ではなく、何をどこでどの時間に測るかを理解する必要がある。

情報 代表的な検出原理 何を補正・較正するか 利用例
収量 穀粒流量、またはロードセルによるタンク重量 傾斜、ゼロ点、投入から計測までの遅れ、品種 収量メッシュマップ、施肥設計
水分 複粒式の電気抵抗、誘電率等 温度、粒温、品種、流量、接触状態 乾燥計画、品質管理
食味関連 反射式近赤外分光で玄米タンパク含量を推定 検量線、粒温、水分、光学窓の汚れ タンパク・収量マップ、施肥の検証
位置・姿勢 GNSS、IMU、車速・方位 測位誤差、遅れ時間、アンテナ位置 メッシュへの割当、走行軌跡

農研機構が開発した稲麦用収量コンバインでは、収量測定にタンクをロードセルで測る方式、水分に複粒式電気抵抗方式を採用し、タンク重量を傾斜センサで補正した。農研機構・稲麦用収量コンバイン また生体情報測定コンバインでは、籾質量、籾水分、反射式近赤外による玄米タンパク含量、わら質量・水分を同時に扱う構成が提示されている。農研機構・生体情報測定コンバイン

食味センサという名称は誤解されやすい。多くの場合、センサが人の「おいしい」という感覚を直接測るのではない。米の食味に関係する指標の一つであるタンパク含量を近赤外で推定し、収量・水分・位置と結び付ける。食味は品種、精米、炊飯、水分、アミロース、タンパクなど複数要因で決まるため、タンパク値だけを食味の絶対点数として読んではいけない。それでも圃場内の相対的なばらつきを知り、窒素施肥の過不足を検証する用途には強力である。

位置 \mathbf p(t) とセンサ出力 q(t) をその瞬間に結べばよい、というのも誤りである。刈取りから脱穀、揚穀、センサ通過までには滞留時間 \tau がある。地図化では概念的に q(t)\mathbf p(t-\tau) に割り当て、さらに区画端や旋回時のデータを除外する。\tau は一定とは限らず、作物量やタンク内の流れで変わる。センサ研究で時間遅れ・機体傾斜・低流量・耐久性が課題として挙げられる理由である。農研機構研究報告

クボタはDR6130Aに食味・収量センサを標準搭載し、KSASへ食味・収量メッシュマップを連携できるとしている。対応一覧ではDR6115/DR6130やDR575/DR595にも仕様により標準またはオプション設定がある。クボタ・対応機一覧

現行機の公開仕様を比較する

下表はカタログの全仕様を横並びにしたものではなく、同じ「大規模水稲向け自脱型」という範囲で、公開ページから確実に読める指標を抜き出したものだ。価格は仕様・地域・オプションで変わるため、購入判断は販売店見積りで再確認する。基準日は2026年9月3日であり、クボタの価格ページは2026年7月1日現在と明記している。

メーカー・機種 条数・最高出力 公開される主な機能 価格等の公開値 公式URL
クボタ Agri Robo DR6130A 6条、130馬力 有人仕様の自動運転、食味・収量センサ標準、KSAS直接通信 メーカー希望小売価格 26,059,000円(税込) 製品一覧 / DR6130A
ヤンマー YH6135,A 6条、138 PS(101 kW/2,200 rpm) 自動操舵、収量マッピング仕様、車体水平制御等は仕様による 希望小売価格は2026 Summer掲載例で24,057,000円(税込、QXJPUIAM2) 製品ページ / EXPO掲載
ヤンマー YH7135,A 7条、138 PS 上記と同系統。1周目の外周登録後に複数自動モードを組合せる 希望小売価格は2026 Summer掲載例で27,390,000円(税込、QXJPUAM2) 製品ページ
井関 Japan HJ6135/HJ7135 6条/7条 新型Japanシリーズ。詳細仕様は型式・仕様表で要確認 価格は公式の型式検索・販売店で確認 2026年度上期新商品
井関 Japan HJ6130-Z 6条 GPSを用いた直進アシスト、A・B点自動取得、後進アシスト 旧世代を含む公開製品ページ。販売状況・価格は別途確認 HJ6130-Z

比較で気を付けたいのは、「馬力が大きい=毎時収穫面積が同じ比率で大きい」ではないことだ。実作業能率は、有効刈幅、走行速度、旋回・排出・補給に使う時間、倒伏・湿田での速度低下、乾燥設備の受入能力までで決まる。ヤンマーはYH6135,A/YH7135,Aを、外周を最初の1周手動で登録した後に、圃場内の約9割を自動操舵で作業可能と説明している。発売資料 これは「どの圃場でも9割が無人になる」という保証ではなく、境界・作物条件・監視を前提にした作業範囲の説明として読むべきである。

自動運転は何を自動化するのか

自動運転を一語で比較すると、技術の中身を取り落とす。少なくとも、(1)直進を保つ操舵、(2)未刈側を検出して刈取部を追従させる、(3)枕地で旋回する、(4)刈高さ・車体姿勢を保つ、(5)タンク満量で排出動作・車両位置を扱う、(6)人・障害物・通信異常に安全側で停止する、に分ける必要がある。

GNSSは長い直線の位置基準に強く、RTK補正では数cm級の相対精度を狙える。しかし稲の条列、圃場境界、排水溝、地面の段差、ぬかるみによる横滑りは衛星だけでは読めない。そこでGNSS、IMU、車輪・クローラ速度、カメラ、作物センサを融合し、操舵と作業部を別々に閉ループ制御する。井関HJ6130-Zの直進アシストは、作業中にA・B点を自動取得し、GPS感度や基準線からのずれを表示する方式で、操舵負担の軽減が主眼である。井関・HJ6130-Z

安全設計では、人が乗っているか、近傍で監視するか、誰が非常停止を担うか、圃場の外へ出ないジオフェンスをどう設定するかが本体性能と同じほど重要である。収穫期は日没前後まで作業が延び、粉塵で視界が落ち、トラックとの並走排出も起こる。自動化は疲労と熟練操作を減らせる一方、例外処理をゼロにはしない。メーカーの取扱説明書、地域の安全指針、実作業前の圃場確認を優先する。

ディーゼルの役割と電動化の現在地

大形コンバインの主機関がディーゼル中心なのは、長時間の高負荷、燃料補給の速さ、重量当たりのエネルギー密度、そして走行・脱穀・選別・油圧を同時に駆動するピーク電力のためである。エンジンは単に走らせるだけでなく、こぎ胴、ファン、油圧ポンプ、ラセンを安定回転させる発電所でもある。負荷は作物量で急変するため、電子制御燃料噴射、ターボ、後処理装置、回転数制御でトルクと排出規制を両立する。

ただし「電動化=主機関を今すぐ電池に置換」とは限らない。農機で先に進むのは、補機の電動化、アイドル時間の削減、バッテリーによるピーク補助、作業機の電動アクチュエータ、充電・交換可能な小型機である。大形自脱型を終日稼働させる電池電動化は、必要エネルギー、充電インフラ、泥水・粉塵下の高電圧安全、重量増による土壌踏圧という厳しい制約を持つ。ディーゼルを使いながら、油圧損失を減らし、最適車速で無駄な再処理を減らすことも実質的な脱炭素である。

一方、電動化は現実に進んでいる。井関は2026年度上期新商品で、欧州市場向け乗用モーアSXGE2に容量7.92 kWhのリチウムイオン電池を搭載した電動製品を挙げている。井関・2026年度上期新商品 用途と規模がコンバインとは違うが、農機で電池、BMS、耐環境設計、充電運用を積み上げる実例である。将来のコンバインは、ディーゼル、シリーズハイブリッド、交換式電池、バイオ燃料、燃料電池のうち一つに急に統一されるより、作業時間・圃場・電力供給に応じた併存から始まるだろう。

最新研究:高水分稲を「速度制御問題」として解く

近年の重要な方向は、センサで収穫後の地図を作るだけでなく、収穫中の制御へ情報を戻すことだ。農研機構、井関農機、宮崎大学などは、粒水分25%以上の高水分水稲を対象に、脱穀負荷を示すトルクと、選別・排塵損失を示すこく粒流量センサを使う車速制御を2026年に発表した。処理量が大きいときは車速を落とし、余裕があるときは上げることで、高水分条件での作業能率と損失低減の両立を狙う。農研機構プレスリリース

この研究が示すのは、コンバインの自動化が「ハンドルを回すAI」だけではないという点である。入力を x=[\text{トルク},\text{損失流量},\text{水分},\text{姿勢}]、操作量を車速 v とすると、制御は概念的に

\max_v\;\text{作業能率}(v)\quad\text{subject to}\quad L(x,v)\leq L_{\max},\;T(x,v)\leq T_{\max}

という制約付き最適化に近い。ここで L は損失、T は脱穀負荷である。実機ではモデル誤差やセンサ故障を考え、急激に速度を変えないこと、異常時は安全な低速・停止へ移ること、作物条件ごとの上限を設定することが必要になる。カメラによる倒伏推定、デジタルツインによる詰まり予兆、圃場地図と収量履歴を用いた予測車速は、この枠組みを広げる研究テーマである。

運転・整備で見るチェックポイント

収穫品質を機械任せにしないため、作業前に刈刃、引起し爪、搬送チェーン、こぎ歯、受網、揺動棚、ファン、ラセン、クローラを点検する。摩耗した刈刃は切断抵抗と引き抜き事故を増やし、詰まった受網は脱穀・選別の条件を変え、ラジエータへのわら詰まりは過熱を招く。設定変更を行ったら、速度だけで判断せず、排わら・排塵側を実際に観察して損失と夾雑を確認する。

現象 まず疑う場所 調整・確認の考え方
穂が残る、株が倒れる 引起し、分草、刈高、車速 倒伏方向に合わせ、刈取部を低くし過ぎず受渡しを確認
排わらに未脱粒が多い こぎ胴、受網、チェーン速度 水分・品種を見て脱穀不足を補正。回転を上げ過ぎない
籾にわらくずが多い 風量、ふるい、2番処理 風量不足・過大、ふるい開度、過負荷を切り分ける
排塵側に籾が多い 唐箕風、揺動棚負荷、車速 まず投入量を下げ、風量・姿勢・棚の詰まりを確認
収量地図が縞模様・飛び値 時間遅れ、較正、GNSS、旋回データ 計測系をゼロ・重量で検証し、端部・旋回をフィルタリング

作業者の安全も性能の一部である。回転部・ベルト・チェーンのカバーを外したまま清掃しない、詰まり除去は必ずエンジン停止・回転停止を確認する、傾斜地や水路際で無理な旋回をしない、排出オーガを送電線や人へ近づけない、といった基本を省略しない。ここで述べた一般論より、対象機の取扱説明書・警告表示が常に優先する。

まとめ

自脱型コンバインは、刈取り、穂部だけの脱穀、風と揺動による選別、タンクへの貯留・排出を連続させる機械である。日本の水田・稲わら・小区画という制約の中で生まれた構成は、わらを脱穀室へ大量に入れないという一つの選択から、機体寸法、処理能力、走破性、後工程までを変えた。

次世代化の中心は、馬力の競争だけではない。損失率を制約にした車速制御、収量・水分・タンパクの位置付き計測、GNSSと作物情報を使う操舵、監視と安全を含む自動運転、そしてディーゼルの効率改善から段階的な電動化まで、機械・計測・制御・営農データが一台の中で結び付く。コンバインを理解する近道は、外から見える条数ではなく、「どの物質が、どの経路を、どの時間で、どこへ行くか」を追うことにある。

参考資料

#農業機械 #コンバイン #自脱型 #スマート農業 #精密農業 #ディーゼル #自動運転